依存していてほしいから[太宰治] ページ4
「やぁっと終わったー!」
ぐぐ、と私の隣で伸びをするAちゃん。
そんな彼女に、にこやかに近づく。
「お疲れ様、Aちゃん。また書類の仕事、溜め込んでいたんだろう?」
「太宰さんにだけは云われたくないです」
ぷく、と頬を膨らまし、拗ねた様に云う彼女。
そんな子供じみた行為でさえ愛おしい。
「まぁまぁ。ほら、これでも飲んで気分転換するといい」
こと、とAちゃんのデスクにココアを置く。
彼女が猪口怜糖の類いが好きなことは、とっくの昔に調査済みだ。
「あ‶−!有難う御座います!これ飲まないと仕事終わったって感じしないんですよねぇ…」
しみじみと云うAちゃんに、密かにほくそ笑む。
「でも申し訳ないです、毎日毎日出して頂いて…」
「良いのだよ、私の仕事やってくれてるし」
「あ今一瞬で感謝引っ込みました」
なんて軽口を叩き合う。
と、思い出した様に彼女が云った。
「そういえば太宰さん、私もうこれで仕事上がれるんで帰りましょう。待たせてしまってすみません…」
「気にしないでくれ給え、私が勝手に待っているだけだから。じゃあ君がココアを飲み終わったら帰ろうか」
私が仕事終わりにココアを出すのは‶当たり前″
私とAちゃんが一緒に帰るのも‶当たり前″
こんな風に、少しずつ少しずつ、
彼女に、私を浸み込ませていく。
私が居なければ成り立たない‶当たり前″を作っていく。
毎日の生活の中に組み込んでいく。
そうして、いつか、私無しでは生きられない様に。
私さえいれば、他に何が無くても生きられる様に。
目の前で無垢な笑顔で笑っているAちゃんは、私がこんなことを考えているなんて微塵も思っていないんだろう。
愚かだ。
愚かで、可愛い。
絶対に気付かせない。
否、それとも、完全に私に依存したところで種明かしというのも存外悪くないかもしれない。
どちらにせよ、真実を知ったその時にはもう既に…。
続く
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作者名：瀬麦 | 作成日時：2022年1月9日 3時
