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城壁の一角に一つの机を挟むように置かれた一対の椅子に王騎とAは座り王騎は酒を、Aは茶を片手に語らうことにした。
辺りは薄暗く灯りと呼べるものは松明のみで、天上には無数の星が瞬いている。麃公を筆頭に聞こえる大広間からの笑い声は心地良く二人の耳に届いていた。
始めこそ眺めの美しさに酔いしれたり酒や茶を静かに飲んでいたりしていた二人であったが、伺うように王騎の方から声をかけた。

「貴女ももう13ですか。まみえる度にあの方の血を感じますねェ。...心なしか摎の面影も」

懐かしむように王騎は目を細めAの横顔を見やり今もなお胸に抱く女の姿をその姿に重ねた。

「それは嬉しいです。わたくしはもう、摎姉様のお顔は朧げになってしまいました。あんなにも慕っていたというのに」
「......」

摎によく似た眼差しでAも目を細めた。幼少期慕っていた姉はもうこの世にいない。敬愛する姉を覚えているにはAはあまりにも幼すぎた。
その気持ちをよく理解しているからこそ、王騎も何も言わなかった。王騎にも計り知れない二人の絆があったのだと慮ったためだ。
王騎とA、二人の関係に名前をつけるならばただの他人だった。しかし二人にはそれ以上の繋がりがあり、残された者同士にしかわからない寂しさがあったのだ。

「昌文君が手回ししているのでしょうが今も貴女の素性を知る者はそういません。そこまでして貴女が武将として為したいこととは何なのですかァ?」
「知っての通り、わたくしは秦国に大恩があります。そして大王にも。その大王が目指す道にわたくしが持つ武が役立つのならそれを差し出すまで。......もちろん、貴方にもいつかお返ししたい」

齢13の大人びた笑みをたたえた緋の瞳に貫かれた王騎は静かな胸の高鳴りを感じていた。
愛した女より幾分も歳下の少女に感情が昂ったことを皮肉めいた笑みを浮かべかき消す。

「そうですかァ...」
「貴方にお力添えいただければ我々の道は幾分も楽になるのですが」
「ココ、検討しておきましょう」

打って変わって悪戯な笑みを浮かべたAに再び愛おしさを感じる王騎。父とも兄とも呼べる関係に確かに男としての情欲が混ざっていることは否めなかった。

「ところで信という歩兵がいたと思うのですが」
「ああ、あの童ですか。貴女に比べればまだまだ爪が甘いですねェ」

穏やかに話は進み、夜も同時に更けていく。空に浮かぶ月は互いの話が尽きるまで温かな光をたたえ二人を見下ろしていた。

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作者名:そると | 作成日時:2020年8月14日 0時

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