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2015年3月31日
「A、ちょっといい？」
マネージャーの清水さんが、楽屋の入り口に立って、私を呼んだ。
事務所の人は普段は現場に来ないことも多いけど、
今日は千秋楽ということもあり、いつもより大人が多い。
「はい、これ。若田に届いたお手紙。」
清水さんは、『Aちゃんへ』と書かれたかわいい封筒を手に持っていた。
初日前日、清水さんからメールが来た。
［公演期間中、ネット・SNS等は見ないようにして下さい。
また、松竹座への行き帰りの際にはトラブルに遭うことのないよう気を付けて下さい。］
私は言われたようにした。
パパはテレビから「ジャニーズJr.に異例の女の子？」と聞こえてくればテレビを切ったし、
丈くんたちの年上のメンバーがいつも松竹座から私が電車に乗るホームまで送ってくれた。
同期のメンバーは私に気を使って、空き時間に楽屋でケータイを見ないようにしてくれてた。
それでも、耳を塞ぎたくなるような厳しい声は私のところまで届いてきたし、楽屋口を出たとたん物を投げられたこともあった。
誰にも求められてない、、、そう思ってた。
「ちゃんと見ててくれる人はいるよ。これからも頑張ってね。」
清水さんはそれだけ言って、手紙を私に渡し、どこかへ行ってしまった。
手紙の最後にも「これからも頑張ってください」と書いてあった。
私はスマホを開いて、ずっと清水さんに送れなかったメールの下書きを開いた。
［このコンサートが終わったら辞めたいです。］
もうこれは必要ない。
『削除』の文字に指を重ねた。
ー私がアイドルとして生きていくことを決めた時、
アイドルとして生きていくことを諦めた人がいたことを知ったのは
その数十分後のことだったー
.
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作者名：笹の葉 | 作成日時：2020年5月29日 19時
