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hk side
｢樹、何食べたい？｣
｢んぇ、なにって？｣
｢朝。夜はちょっと奮発したところ予約したんだけど…、大丈夫？｣
ダイニングチェアに腰掛けた樹が、間延びした声で答えた。
朝食について考えて、そういえば夜は勝手に予約してしまったなと思った。
｢え、まじ。めちゃくちゃ嬉しい｣
不安が一瞬出てきたけれど、その無邪気な笑顔に、予約してよかったと安心した。
なんでこんなに可愛いんだろ。
｢朝だっけ。……フレンチトーストとかお願いしてもいいの？｣
｢誕生日だもん。もちろんだよ｣
樹の頼みなら誕生日じゃなくても聞くけどね。
ありがとー、と返される、それが少しくぐもっていて、樹の身体も伸ばされていることから、まだ眠いんだなと思うともっと可愛らしく思えて、思わず笑みがこぼれた。
少なくとも零時にはまだ起きていたし、それで七時に起きてきたんだから、樹にとってはまだまだ短い睡眠時間だろう。
食パンを用意した。使い込まれた包丁でカット。その他道具を駆使。
さて、次は。
フライパンに入れるバターを探した。
あ、もう今回でなくなる。また次買わないとかな。
料理の最中も、キッチンから見える樹は、まだ欠伸をしていてとても癒される。
目は少し冴えているようだけど、眠そうにスマホのキーボードを打っていた。
盛り付ける食器を取るため、食器棚の正面に立った。
…なんとなく、これにしようと思った食器は、二年前に二人で買いに行ったペア食器。
｢樹、できたよ｣
｢ありがと｣
呼びかけると、すぐにこちらに来てくれて、二つの皿を持ってくれる。
ダイニングテーブルに置かれたフレンチトーストを見て、我ながら過去一なんじゃないかと自負した。味はまだだけど。
｢ん、やっぱ美味い。めっちゃ美味い｣
あぁ、やっぱり自負しよう。
その無邪気な笑顔で、美味い美味いと言って食べてくれて。愛しさが増した。
ふと視界に映った樹が座るダイニングチェア。フレンチトーストが置かれたダイニングテーブル。
あの使い込まれた包丁も、ボウルも泡立て器もフライパンも。なくなりかけていたバターも。
ペア食器も、窓際に生かされた花も、影を作るカーテンも、ぜんぶ。
俺がいなかったら、この部屋には、この家にはなかったもの。
俺色に染まっていく樹が、とてつもなく愛おしく思う気持ちは、年々強まっていく。
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作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
