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｢そっか、今日エイプリルフールだったなぁ｣
｢忘れてたの？｣
｢いや、忘れてたわけじゃ…。あ、そういや今日も日越した途端高地が嘘ついてきやがったわ｣
樹は高地と二人で仕事だった。それこそ、三十一日から朝までずっと。
この予定を見た時、キレそうになったが流石に抑えた記憶がある。
｢…ふぅん、高地がねぇ。どんな嘘？｣
｢いや、どんなんだったかな。エイプリルフールに気付かなくてまんまと引っ掛かって憎たらしく思った記憶しかねぇ｣
｢…そっか、らしいね｣
二人きりなことに嫉妬なんて、今更だ。
そう思いつつも沸く感情は、愛する人のらしさに簡単に抑えられた。
｢お前が無駄に演技力使うから｣
｢そんなリアルだった？｣
｢…超焦ったわ｣
｢ごめんね。ちゃんと休みだから｣
｢……ん｣
言葉で充分だろうが、ちゃんと安心させたくて腕の中に閉じ込めた。
今度は自分の裾ではなく、俺の服を掴んでくれて、愛おしさが芽生える。
それに、本当に仕事が入るのは俺が嫌だ。多分樹よりも。結構期間空いたし。
｢とりあえず、お風呂入る？ 疲れてるでしょ？｣
｢……｣
｢…、樹？｣
疲れているだろうと踏んで提案したが、呼びかけても返事がない。数秒前身体にかかる重量が大きくなったことに気付く。
｢…もう夢の中か｣
そっと様子を見ると、樹は既に眠っているようだった。
お風呂は、起きてからでもいいかな。
にしても、本当に疲れてたわけだ。
食べてすぐに寝ちゃうなんて。ダメだけど、起こす気にもならない。
起こさないように(といっても樹は起きないだろうが)腕の中の樹を抱き上げて、寝室に運ぶ。
ベッドにそっと寝かせ、剥ぐ可能性はあるが、丁寧に布団をかけた。
｢…かわいい｣
今の樹は目も口もちゃんと閉じてる。いつもの半目半開きも、それはそれで好き。
｢樹、好きだよ｣
なんてことない日常が、結局幸せで、思い出。ふとした瞬間にそう思うことがある。
無意識に飛び出た言葉が、俺にとって何よりの証拠。
｢…おれも、すき｣
運んだ時に起こしてしまったのか、樹の呟きが直後に聞こえた。
｢もう、愛してる｣
それに対する返事はなかったが、額にそっとキスを贈り、背を向けた。
が、次の瞬間腕が掴まれた。
振り返ると、樹の指先は唇を指していた。
【Fin】
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作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
