･ ページ22
･
結局あのまま何もかもしたが、食卓に並べて座る頃には既に離れていた。
｢いただきます｣
もう樹の眠気はなくなってるみたい。
夜に出て朝に帰ってくる仕事だから、出る直前まで仮眠を取っていたけど、普通に生活習慣乱れてるからなぁ。
心配だし、後で寝かせないと。
｢相変わらず美味しい｣
樹の笑顔が何よりも好きだ。
｢それならよかった｣
それに、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるって、すごく幸せなことだよな。
その相手が樹ってだけでもう幸せ。
｢そうだ樹｣
｢…ん？ なに？｣
｢今日の午後と明日の朝仕事入っちゃった｣
｢……っえ、入れなかったんじゃないの？｣
しばらく俺を見つめ、時間をかけて理解したのか、ぱっと見開かれた瞳と同時に、樹は焦ったような声を出した。
｢まぁ、そうなんだけどね。どうしてもって言われちゃって｣
｢え、でも、一昨日まで働き詰めだったから振休的なのって言ってたじゃん｣
｢俺もそのつもりだったんだけどね｣
昨日と今日と明日。この三日間、俺は休日だった。
それは樹の言う通り、二週間と少し前からずっと働き詰めだったことをマネージャーが心配してくれて、用意されたもの。
樹は昨日の夜から朝まで仕事が入っていたから、俺と樹の休みが被るのは今日と明日。
もう少し詳しく言うなら今日の夜と明日が『大丈夫』なのは、この二日だけだったのだ。
…まぁ、つまり、そういうこと。
｢仕事のことなら何にも言えないじゃん、…｣
｢…うん、ごめん｣
自らの左手の裾を右手でぎゅっと掴み、視線も合わせないまま樹が呟いた。
……まぁ、最近なかったしな。
一瞬でしゅんとした樹に、可愛いと思う気持ちと申し訳なく思う気持ちがある。
｢……いいよ、北斗は悪くないし｣
｢ごめん｣
｢だから大丈夫だって。そう何回も言われたらダメージ増える｣
｢これ嘘｣
｢……っ、は？｣
｢嘘だよ。ちゃんと明日までお休み｣
｢はぁ？｣
｢だから、これは_____｣
｢あぁもううっせぇ！ 理解してないわけじゃねぇ｣
｢あぁ、そう？｣
まぁ、そうだろうな。
帰ってきた時よりも大きなため息をした樹は、そのまま俺に寄りかかった。
｢ごめんね、嘘ついて｣
｢…別に。ちゃんと空いてんならいいんだよ｣
肩にある頭を撫でた。
裾を掴む力が弱まったのを確認して、『可愛い』という感情を再認識した。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 611人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
