･ ページ18
･
この人は田中樹といって、三年一組の担任教師。ちなみに俺は二組。
そして社会科を担っているこの先生が、俺は好きだ。
もちろん、先生としても好きだけど、それ以上に。
俺が一年の頃から、俺達の学年を受け持っていた先生は、当時の教師歴一年目。多分その時は副担任、とかだったかな。
二年になって、次は二組の担任を持つことになり、三年では一組。相当力量のある先生なのだろう。それは俺もわかる。
マトモに樹先生の授業を受けたのは二年から。
それまでの俺の社会科に対する認識というのは、言葉にもできないほどつまらない教科ということだった。
それを覆してくれたのが樹先生。何が良かったのか、何が俺に興味を持たせたのかは分からない。
…まぁ、その時点で先生に好意があったから、というのもあるかもしれないな。
先生のルックス、性格、授業、話し方。多分、全部。それくらい抽象的な好き。だけど、だからこそ具体的に思い出せる。
｢樹先生、なんで卒業式途中で退出したんですか｣
｢……いや、別に｣
｢別にじゃないでしょ。いいじゃん、減るもんじゃないですよ｣
｢俺の心にクるもんがあんの｣
｢…へぇ、俺最後の期末社会科一位だったんですよね？｣
｢お前それいつまで言うつもり？｣
｢先生のことを好きでいるうちはずっと言います。多分一生ですね｣
｢っ、…なんとなくさ、…顔面崩壊しそうだったの。涙腺がっていうか｣
｢へぇ、可愛いですね。先生の泣き顔見せてくれてもいいのに｣
先生が見た目に反して可愛いところがあるなんて知ってる。
けど今なら、いつもに増して煽ることができるような気がして、少し口角が上がった。
｢お前、いつまでも生意気でいるんじゃねぇぞ｣
｢…っえ、ん、っ…｣
一瞬唇に温もりが灯って、驚きに目を見開くと、視界には悪戯な笑みを浮かべた樹先生がいた。
｢お前が俺に勝とうっつったって一兆年早いわ｣
｢え、たった一兆年ですか？｣
｢うっせ。時の流れ舐めんじゃねぇぞ｣
｢先生といたら一兆年も早いってことですよ｣
いつから始まった勝ち負けなのか分からないが、いつかこの大人びた先生を愛で言い負かしたいと思っている。
今度こそ、勝ったんじゃ…？ 期待を込めて視線を送る。
｢…お前となら、一兆年も生きられるかもな｣
いつもこの人は予想外の角度から胸キュンさせてくるんだ。
俺はまた勝てなかった。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 611人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
