リアル

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それにしても起きないな。

生きてるよな？

登坂さんの心臓あたりに、

耳を当ててみる。

おお…。

ドクンドクンと音を立てて、

生きてるって主張をする。

ああ、なんて素敵なリズム。

登坂さんの胸から伝わる温もりと、

ゆっくりと響く心臓の音。

そして、この、なんとも言えない、

いい匂いーーーー！

死ねるっ！！

目を閉じると、

恋人の胸で朝を迎えた日のようだ。

…迎えたことないけど。

「ねーちゃん」

うるさい、黙れ。

人がこの美しい胸板の上で、

うっとりするような甘い時間を

過ごしてると言うのに！

ほんとっ、空気読めよって。

無視して心臓の音を堪能する私の頭が、

ゆっくりと持ち上がる。

『へっ？ん？』

くるりと向きを変えると、

登坂さんと目が合う。

『うううううわぁぉぉぁぁぁおっ！』

「岡田かよっ」

私は、ますだおかだとは違う。

恋に落ちた。

気づいてしまってつい、

声が出たのだよ。

昨日までの私の、

登坂さんへの想いは、

なんて薄っぺらだったんだろう。

目が合った瞬間、

電流が流れたように、痺れたハート。

あーもー大好きっ。

「ここ、どこ？」

いやっほーい。

声までステキ！

てか、本当に登坂さんの声だぁ。

答えようとしたのに、

緊張して声が出ない。

あれあれあれ？

パクパクと口を動かすだけの私に、

弟が声を当てる。

「初めまして、私、A！ここは、私の家！あなたが倒れていたから、ここまで運んできたの。勝手なことしてごめんなさいね」

きっしょ！

低ーい男の声で、

私の真似をするな！

そう言ってやりたいけど、

登坂さんを前にして、

ちっとも声が出ない。

あ、これ、アレか。

人魚姫か。

人間に恋をした人魚姫は、

声を失って、足を得た。

私は、声を失った代わりに、

何を得たんだろう。

登坂さんの心ならいいのに。

なーんて。

うはははは。

ひとしきり、妄想タイムも終わって、

改めて登坂さんを見ると、

ぶっ倒れそうなくらい、

美しく、儚げで。

もう私、死んでもいい！

なんて思いながら、

登坂さんの前に座り込む。

『…あーあー。あ、声出た。よかった。えーと…、名前、言えます？』

「オレ？…登坂広臣です。映画の撮影してたはずなんだけど」

そーかそーか。

映画撮影ね。

てゆーか、記憶喪失とか、

そんなうまい具合にはいかないのね？

名前、言えちゃうのね。

……ちぇっ。

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