魔女の音 /sm ページ10
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「スマイル、私これキライ！！」
小さな少女の声が木製の小屋に響く。心底五月蝿そうにスマイル、と呼ばれた男は眉をひそめて少女を見つめた。
男はすいすい、と人差し指を掻き分けるように動かし、口を開く。
「ワガママ言うな……ほら、味変えてやったから」
「……！！おいしい！！スマイル、これおいしい！」
「はいはいわかった。静かに食え」
スマイル、とは。
エーテル王国に住んでいるにも関わらず、今どき木造立ての小屋に入り浸っている薬屋、というのが表向きの顔だ。
しかし人々はかつて彼を沈黙の魔女と呼んだ。
「スマイル、食べる？」
「……俺は食べなくても生きていける。無駄な食事はしなくていい」
「こんなにおいしいのにー！！」
魔力を持ちし人間。非科学的現象を可能にできる数少ない人物であり、災いを起こす元であると古くから言い伝えられてきた。
その上、魔女狩りが流行る今世紀では、魔女という種族は非常に生きづらくなっていき、今は隠居しているものが殆どである。
この小屋もスマイルの手によって永久保存魔法がかけられた、朽ちることの無い建造物である。
唯一崩壊することがあるとすればスマイルが死したときであろうか。
「スマイル！食後のデザートは？」
「……いつからそんな言葉覚えたんだ」
冷却魔法が掛けられた金属製の小箱の中から、つるりと自慢げに輝くカスタードプリンが覗く。たまたま買ってきていたものだったがこれがあってよかった、と人知れず魔女が安堵する。
「……大きくなったらお前も俺が食ってやるからな」
「す、スマイル……人を食べるの……！？！？」
ぽかん、と口を広げて驚く少女に、頬杖をついてスマイルは薄く笑う。
この世は悪が居る限り均衡が保たれる。人間というのは、他と違うものを責め立て端に追いやることによって協調性を産むのだから。
ならば、
「……そう。だからお前は俺を怖がればいい。
「でも、スマイルはこんなに優しい！」
「…………物好きなやつだな、お前も」
沈黙の魔女が、子供を拾ったらしい。
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作者名：りつ | 作成日時：2022年5月16日 18時
