在りし日の約束 ページ3
ある日を境に、私は自分で歩くことができなくなった。
確かその時は、幼馴染みの千空と2人でロケットの軌道計算をしていた。
私は当時10歳。
千空の家で倒れてしまい、千空が顔を真っ青にして白夜さんを大声で呼んでいたのを鮮明に覚えている。
物心付く前に両親が亡くなってしまった私にとって2人は本物の家族みたいな存在であって、その2人にあんな心配そうな顔をさせてしまって私は最低な人間だ。
だが、それと同時に私は幸せ者だった。
それから私は小学校も中学校も高校も行かずに、病院での日々を過ごした。
どれだけ私が望もうとも、この難病は私を病院から逃してくれなかった。
【 ウ ル リ ッ ヒ 病 】
日本で報告があったのはたったの300人という、珍しい病気だったらしい。
千空は動けない私のもとに、毎日、毎日来てくれた。
大樹くんは偶に千空に着いてきて、病院内だと言うのにとても大きな声で「体調は大丈夫かああああ!!!!!」と言ってくれるが、千空にいつも怒られている。
千空の話は面白い。
最近のロケット打ち上げの話、クラスでの先生の話、大樹くんの好きな子の話。
何も無い病室の白い風景が、千空が居る時だけ鮮やかだった。
孤独を浮き立たせるあの空気が、千空が居る時だけ賑やかだった。
この日常が続け__。
否、欲を言うならこの病が消え去って、千空や大樹くんや杠ちゃんと学校に通えたら。
みんなで好きな事を共有できたら。
みんなと心から笑えたら。
そう願ったのだ。
みんなには恩を売るだけ売りつけて、自分はまだ恩返しを出来ていないというのに。
私は偏屈な人間なのに、杠ちゃんはいつでも私にお人形を作ってくれた。
嬉しそうにそれを受け取る私を、杠ちゃんはいつだって可愛がった。
私は陰険な人間なのに、大樹くんはいつでも千空と仲良くしてくれてありがとうと言った。
気まずそうに目を伏せる私を、大樹くんはいつだって笑い飛ばしてくれた。
私は悪辣な人間なのに、千空はいつでも私の傍らに寄り添った。
苦しそうに咳き込む私を、千空はいつだって心配した。
私が、3人に還元できていることがあまりにも少なかった。
恩返しがしたかった。
2019年6月3日__。
私は千空を呼び出した。
A今日部活?が終わったら来て。
千空別に構わねぇが、なんかあったか?
Aいや、緊急事態なわけじゃないから大丈夫。
ちょっと話したくて。
そう約束した。
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月見(プロフ) - まーさんさん» 早速コメントありがたい限りです!ご期待に添えるよう頑張りますので宜しくお願いします! (11月1日 7時) (レス) id: 2f2ae5a510 (このIDを非表示/違反報告)
まーさん - 続きめっちゃ気になります!楽しみに待ってますね! (10月31日 23時) (レス) @page4 id: 3f806a558d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2023年10月30日 11時