バレンタイン（生徒×生徒）�� ページ6
【相澤side】
言葉通りスマホを操作して、スッと瞼を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
伊達メガネを外し忘れているので慎重に外し、左右どちらから畳むのか迷った末に自分がつけることにした。
ちょっとした悪戯心もある。
耳と鼻あたりに違和感があり、視界の端に眼鏡の縁が見えて面白い。
通路を歩いてきた若い男が先輩のことを不躾に見てきたので、俺の肩に先輩の顔を乗せる。
ギロリと睨めばそそくさと逃げていった。
寝顔を見ていいのは俺と先輩の家族だけだ。
風邪を引かないように俺のブレザーを先輩の膝にかける。
結局俺は寝ることができず、通行人を威嚇しているうちにまもなく東京へ着く。
「先輩。もうすぐ着きますよ」
「ん……あぁ。悪い」
起き抜けの先輩はテンションが低く、口調も荒い。
地声は小声だったので誰にもバレず、ゆっくりと体を起こした。
ぼんやりと窓を見つめる先輩の視線が自分、ビル街、俺へと移動して、本物の俺へ華麗な二度見を決める。
眼鏡！と叫ぼうとした先輩の口を抑えると、代わりに音を抑えた拍手喝采を頂戴した。
手を離すとキラキラした顔でいつの間にか色違いの眼鏡をかけていた。
「スペア持ってるしオソロってことで今日ずっとかけててほしい」
「そんな気に入ったんですか」
「うん。この姿を永遠に残したい」
「ツーショットなら撮ります。声戻ってますよ」
「ﾝﾝ！ えっちょっと近くない？」
「あぁすみません。もう少し離れますね」
「いやダメ離れないで。あっ顔がよすぎる。笑顔ダメ。無理。あぁ〜」
「先輩顔隠さないで」
両手で覆われた顔をわざとゆっくり外した。
寝ていた時の姿勢のように俺の肩に顔を乗せれば、先輩は「ﾋｨ」と鳴き声を残してカチコチに固まる。
先輩の反応が面白くてついからかってしまうのだが、あまりやりすぎると気絶してしまうので加減を見てやめる。
構えた時点で写真ではなくムービーで撮っていることに気づかせないよう、指でシャッターボタンを隠し、髪を撫でて意識を逸らせる。
「はい。撮れましたよ」
「うんありがと……」
アナウンスが流れたので倒れそうな先輩を支えながら、俺達は荷物を持って出口へ向かった。
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作者名：三味線 | 作成日時：2022年2月14日 16時
