コミュ障の鬼殺隊士は誤解と冷や汗を撒き散らしながら今日も往く。 (ページ17)

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勘違い14個ページ17

怖くない、とは見栄を張ったもののやはり怖いものは怖い。

顔では絶えず余裕そうな、どこか舐めたような表情を浮かべていたが服で覆われた背中は冷や汗が止まらず、たっぷりのフリルで隠された刀を持つ手は小刻みに震えて気を抜いたら手を滑らせてしまいそうだ。

先程口では雑魚鬼だなんて言ったがこいつはとんでもなく強い。下手な十二鬼月なんかよりも強いのではないだろうか。

もしかしたら元々十二鬼月だったという可能性も無きにしも非ずだ。

背が高く髪の長い、満面に焼けただれた痕を残したおぞましいその鬼は私を見るとにたりと冷えた笑みを浮かべる。

深く息を吸って気持ちを一旦落ち着かせる。

『語の呼吸、拾八の型……』

思い出しましょう、幼い頃の本で読んだ西洋の物語。髪の長いお姫様が主役の物語。

あのお姫様は長い髪を使って塔を昇り降りしていたの。

長いたくさんの髪の毛を1本の束にして、強くして。あの髪の毛あってこそあのお姫様の物語がある。

細く、細く、息を繋いだ。髪の毛のようにとても細く。

そしてあのお姫様は大胆な性格でそれを一気にひと束にしていた。

私は胸の中心に刀を構える。まるで西洋の細剣を持つかのように。

細く束ねた意識を全て一つにまとめて______

『塔の上の髪長姫(ラプンツェル)……！』

あの背の高い鬼の喉仏、その1点に垂直に全ての突きを叩き込む。

美しい黄金に染まった刀身が繊細で素早く一筋の閃光を描きながら何度も鬼の頸へと吸い込まれるように突き刺さっていった。

刺し穿ち終わり、ふわりと舞うような動作で身を引き見事な着地をすると同時に、鬼の頸から忘れていたかのように血が吹き出す。

「ｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞ…稀血ｶﾞｧ…」

そういう鬼を気にもとめず最期のとどめを刺すべく一陣の刃を振り下ろした。

その光景はさながら長い艶やかな赤毛が塔から垂れ落ちるよう。

消えていく鬼を見つめ、私は花が綻ぶように微笑む。

そう、ラプンツェルは純潔の姫。世の不浄も命を奪う意味も知らない。

なんの罪悪感も抱かぬ無垢な笑顔は血濡れの河原にはあまりにも不釣り合いでなんとも言えぬ恐ろしさを感じざるを得ないだろう。

私は物語に侵食され、チョコミントくんから声をかけられるその時までただただ純粋な美しい微笑をたたえたまま動くことは無かった。