9話 ページ10
「お疲れ様。事件も一段落したし、今日は早めに帰ったらどうだ?」
関さんが私の肩に手を置きながら笑いかけてくれる
「そう……ですね、はい」
早めと言っても定時はとっくの昔に過ぎていた
「あっ、関さん。私、拳銃の精密手入れをしたいのですが、専門の方紹介していただけませんか?」
この間の突入の際、売人の口内へ突っ込んだ自分の拳銃を思い浮かべる
「ん?構わないが…精密手入れには早くないか?」
「えっと…この間の突入でちょっと…著しく汚染したもので……」
さすがに売人の唾液が気持ち悪くて自分で手入れしたくないとは言い難く口篭る
「そういう事なら…でも、次はちゃんと報告してくれ」
「はい、申し訳ありません」
「Aは拳銃の動作に問題がないと思って言わなかったんだろうけど、それも含め判断するのが上司の仕事だからな」
宥めるように私の頭を撫でながら関さんは目を細めた
この人の優しさは厳しさでもあるのだと悟る
詳しく問い詰めないのも激しく叱責しないのも、私への信頼があるからだろう
半分くらいは彼の性格のような気もするが
「ありがとう、ございます…」
この人の信頼を裏切ってはいけない
私はマトリになって初めて、進むべき道を照らされた気がした
■■■
間もなく退庁した私は、関さんに紹介してもらったお店へと訪れていた
寂れたビルの2階にある小さなガンショップだが、その実政府御用達のメンテナンスショップだ
表向きはモデルガンを売り、裏では本物の拳銃をメンテナンスする
海外ドラマに出てくる裏店舗のようで、少しワクワクするのは仕方ないだろう
様々なステッカーが所狭しと貼り付けてある金属の扉を開けると
そこには意外な人物がいた
「…朝霧さん?」
良く考えれば警察が使っていてもおかしくはないのだが、その時の私はまさか朝霧さんが居るとは思ってもいなかった為心底驚いてしまった
「おや、Aさん。あなたもメンテナンスですか」
店主と思われる男性と朝霧さんが同時に私を見やる
「あ、はい」
朝霧さんに挨拶をしつつ、店主へ拳銃を手渡す
「はじめまして、厚労省麻薬取締部捜査企画課のAです。精密手入れをお願い致します」
「おーお前さんが噂の新人マトリか。なんだって早々に精密手入れなんかするんだ?」
店主から当然の疑問をぶつけられる
それもそのはず、拳銃の精密手入れは通常年に1回
普通手入れは自分で行うのだ
「あーっと…」
朝霧さんを気にしつつ私は話始める
13人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さのすけ | 作成日時:2022年5月29日 20時