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4話 ページ5

………………


事務所には沈黙の帳が降りていた

関さんは何度か口を開こうとしては、適切な言葉を見つけられず口を噤むという行為を繰り返していた

私としても、事情を説明するべきか否か考えあぐねていた

泉さんの薬効体質を知っている彼らは、恐らく信用に足る人達なのだろうが
私が個人的に信用できるかと問われれば別問題だ
更に言えば、私は泉さんと違って体質を理由にマトリになった訳ではなく
一般試験に合格してマトリになっている
ここで彼らに打ち明けることがメリットになるか考えると、どうしてもデメリットのが多い気がする

(私は実験動物にされるのも監視下に置かれるのも嫌。自分の身は自分で守れる。……でも、何も知らせないまま彼らを巻き込んでいいものか)

彼らを巻き込みたくはないが、私がここにいる限り嫌でも巻き込まれる時があるだろう
今更就職先を変えるのも、ここより安全な就職先を見つけるのも現実的じゃない

いや、そもそもここの警備が薄いのが悪い……

ごちゃごちゃ考えても行き着く所は愚痴になると察した私は、諦めのため息と共に顔を上げた

「…由井さん、シャーレか試験管か…ビーカーでもフラスコでも構いませんけど、綺麗な物ありますか」

「あ、ああ」

ちょっと待てと言いながら、由井さんは研究室からシャーレを持ってきてくれた

私はシャーレを受け取り自分のデスクからカッターを手に取り、そのまま掌を切りつけた

「なっ!」
「おい、A!」
「Aさん…!」
「ええ!?Aちゃん!」

各々驚愕の声をあげているが、それを無視して由井さんにシャーレを返す

「この血液を分析してください。それから……泉さんの前に追っていた薬効体質者の噂についても調べ直してください。あと関さん、今回の事は泉さん目当てのチンピラって事で処理して、警備を強化してください」

私は早口でまくし立てる

「この話は由井さんの分析が終わるまで保留です。由井さんがある程度情報を集めそれが真実に近ければ、その時お話します。それまでは話しません、以上!解散!」

パンッ

軽快に掌を鳴らし私は無理矢理話を終わらせた

「さて、青山さん。私は手当をしたいので医務室へ行きたいのですが、業務の説明はその後でもよろしいでしょうか?」

「…あ、ああ」

有無を言わせぬ私の勢いに全員が気圧され、その日はそれ以上この話題が上がることはなかった

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作者名:さのすけ | 作成日時:2022年5月29日 20時

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