すべてのことには意味がある～序章～ (ページ29)

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番外編思い出は紅くページ29

「行っちゃったね…」

去っていくボランティアさんの背中に手を振りながら

私は、少しの寂しさと
すべてが終わった安堵に包まれていた

「お前…腹、大丈夫なのか」

「…お腹？」

夕食時には少し早いけれどまあまあいい時間なので、確かにお腹はすいている
が、流石にその事ではないだろうと首をかしげる

「…さっき、蹴られてただろ」

あぁ…と左脇腹に手をやりながら思い出す

「うん、大丈夫みたい。もう痛くないよ。」

ありがとう、と微笑みながら海斗を見上げると
その後ろにはいつの間にか星空が広がっていた

すっかり暗くなってしまったので、そろそろ帰ろうかと私たちは歩きだす

「私は駅だけど…海斗は？お家近いの？」

Tシャツにジャージと言うラフな格好に加え、手ぶらだったこともあり
私は勝手に近所の子なのかと思い込んでいた

「近くはない。
　けど、ランニングの途中だったから、俺はこのまま走って帰るわ」

「そっか…わっ…」

突然、日が沈み少し冷たくなった春の風が
私の結っていない髪をふわっと舞い上げる

今まで気づかなかったけれど、この街はよく風が吹く

暖かく人と人を繋ぐ不思議な風

「綺麗な髪だ…」

「え？何か言った？」

海斗が何か言った様な気がしたが、考え事をしていた私の耳に届くことはなく
夜のいたずらな風にさらわれてしまった

「なんにも言ってねぇよ。
　ほら、駅までついてってやるから行くぞ、A。」

私の頭をクシャッと一撫でしさっさと歩き出してしまった

「あっ…待って…
　ありがとう。優しいのね」

海斗の背中に追いつき、そのまま横に並んで歩く
歩きながら私を横目で確認し、眉毛をハの字にしながら呆れたような表情で海斗がつぶやく

「お前…ほっとくとまた、面倒ごとに首突っ込みそうなんだよ…」

なんだか失礼な事を言われたような気もするが
送ってくれる優しさに免じて聞き流す

好きなおにぎりの具など、他愛もないことを話していると
あっという間に駅が見えてくる

「あ、電車来る。…はい、これ私の連絡先！
　じゃぁ、今日はほんとありがとうね」

手帳の切れ端に走り書きした自分の連絡先を、半ば無理やり海斗に押し付け
私は手を振りながら改札へと駆け出す

「おい！ちゃんと前見ろ！…ったく」

小言を言いながらも私が見えなくなるまでそこに居てくれるのだから
海斗はやっぱり優しいんだなぁ

電車に乗り込み、夕日に浮かぶ紅の少年を思い返しながら私は家路についた