番外編*赤い夕陽* ページ25
その時の私は無我夢中で
腕の中にある小さな温もりを守るのが精一杯だった
そんな私の目に焼きついて離れないのは、鮮やかな紅
―――――
新学期が始まって間もない今日は
サークルの勧誘活動に駆り出され、講義が終わってからずっと実演をさせられていた
うちの大学には古いがそこそこ大きい弓道場がある
しかし弓道部は存在しておらず、実質弓道サークルの独占状態だ
何人かが外で勧誘をし弓道場へ新入生を誘導
私を含めた何人かが道場内で実演、それを見せながら説明やパンフレットを配る
どこの宗教かと思うほど見事な流れで新入生を囲い込んでいく
そんなこんなで、かれこれ2時間は休みなしで弓を引かされ
帰る頃にはくたくたになっていた
半ば疲労で意識朦朧としながらも
早く帰って夕飯の支度をしなければと
冷蔵庫の中身を思い出しながら駅へと向かう
その途中、大きいが子供の喜ぶような遊具は何もない、広場のような公園を通りかかる
いつも通りかかるのはバイト帰りの遅い時間のため、
人気がなく街灯も少ないこの道を使うことはあまりないのだが、
実はこの公園を突っ切るのが駅までの近道なのだ
今日はまだギリギリ夕日が顔を出しているので大丈夫だろう、と
長くなった自分の影を追いかけるよう、足早に公園へと踏み込む
しかし、そんな私の思いを嘲笑うかのように
穏やかな夕暮れには似つかわしくない怒号が、木々を震わせ公園内に響き渡る
思わず声のした方へと視線をやると
缶ビールを手にした白髪交じりの男性が、ベンチに向かって怒鳴っていた
「どけって言ってんだろっ！」
そう怒鳴りながら男性が腕を振り下ろすと
ベンチから何かが弾き飛ばされた
断末魔のような声を上げ地面に転がったそれは
茶色い毛を逆立て、見開いた瞳から針のような瞳孔を覗かせている
男性に殴られ、ベンチから弾き出されたのは茶色いトラ模様をした猫だった
「…なんだ、その目は？ふざけんなっ！」
自分を睨みつける猫が気に入らなかったのか
白髪交じりの男性は、今度はその猫を蹴り上げようと右足を振りかぶる
考えるよりも先に私の身体は動き出していた
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作者名：さのすけ | 作者ホームページ：https://twitter.com/sanomasa0810
作成日時：2019年6月9日 16時
