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番外編*無防備な少年* ページ22

あらかた買い物を終え
かごの中身を確認しながらレジに向かう

夕方のセール時間とあって、一日の中でも一番にぎわっている時間帯かもしれない
お菓子コーナーから飛び出す子供
買い物に夢中なお母さんと思われる女性

レジ奥の袋詰め用の台で井戸端会議をしているおば様方

見慣れた光景の中に

ふと見慣れない、しかし見覚えのあるおでこが目に入る

レジに並んでいるようだが身体が揺れている


左足を開き
右足を左足に付けてから
スッと真横に開く

(足踏み…?)

私は少年の後ろに並び声をかける


「ねぇ、さっき豚肉の所であったよね?」

にっこりと笑いかけながら私より少し高い位置にある深碧の瞳を覗き込む

でこっぱちの少年は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに誰だか思い出してくれたようで
豚ロースの、と呟き先ほどと同じようにぺこりと頭を下げた

「君、弓道やってるの?」

先ほど彼がやっていた行動――足踏み――は
射法八節という弓道の基本的な動きの一つだ


「えっ…なんで…」

くりっと見開かれた深碧の瞳が私を見つめる

「え…今足踏みしてたから……もしかして無意識?
 よっぽど弓が好きなんだね。」

私の言葉に目の前の少年は、辛そうに顔をゆがませる

(あれ…聞いちゃいけない事聞いたかな…)


「っ…俺は、…俺はもう弓引きじゃないから。」

『弓引きじゃない』そう言い放つ彼の顔は、とても…悲しそうに見えた

けして大きくはないこの身体に、いったい何を背負っているのだろう


せっかく出会えたのだから、何かしてあげられないかと
しかし余計なおせっかいではないか
私では何も出来ないかもしれない

そんな事を暫し葛藤し、私は意を決する


「ねっ、君急いでる?ちょっと寄り道して帰らない?」

外の自販機でアイスおごるから、といたずらっぽく笑いかける

やらない後悔よりやる後悔

二度と会わないかもしれない男の子に遠慮するのも私らしくない
当たって砕けろ
(相手にはいい迷惑かもしれないけど…)


戸惑う無防備なおでこに、ちょっとだけだから、とダメ押しをする


「…肉痛んじゃうから…少しだけなら」


そう言い残しレジへと進む背中に
ありがとう、と笑いかけ

私も会計の準備を始める

番外編*痛みの記憶*→←番外編*豚ロース*



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設定タグ:滝川雅貴 , マサさん , ツルネ   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:さのすけ | 作者ホームページ:https://twitter.com/sanomasa0810  
作成日時:2019年6月9日 16時

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