番外編*豚ロース* ページ21
その後の私は、思ったよりもずっと
毎日せわしなくて
夜多神社へ行けずに1ヶ月近くも経ってしまった
正確には何度か彼に会いに行ったのだけど
タイミングが悪く1度も会えなかった
先輩の送別会や新入生獲得に向けてのサークル活動など、学校行事も多いが
(ちなみに私はもちろん弓道サークルだ)
私は学校近くの神社で巫女のバイトをしているのだが
それがまた激務
通常巫女のアルバイトなら、さほど忙しい事もないのだが
私は昔、知り合いの神社を手伝っていたことがあり
大抵の業務や巫女舞・お琴もそれなりに習得していた為
本職と同じくらい…とは言わないが、かなりいいように使われている
月次祭、祈年祭と春祭り(うちの神社は母体が北の方らしく祈年祭と春祭りを同時に行う)、人形供養祭、入学祭…
それに加え3月4月は、入学や入社のお礼参りが増える
合格してすぐではなく、何故か新生活が始まったり落ち着く時期にお礼参りが増える
長年不思議に思っているが、今もなお謎は解けないでいる
あと3月はおじいちゃんの誕生日やお手伝いに奔走していた
そうこうしているうちに月日はあっという間に流れ
新学期が始まってしまった
なんとか時間を見つけて会いに行かなければと
焦る気持ちを抑えながら、夕飯の買い物にスーパーへと駆け込む
(よかった、セールの時間に間に合った…)
お目当ての卵を早々にかごへ入れ、スーパーを一回りしてると
豚肉もセールな事に気が付き手を伸ばす
「あっ」
最後の一つだった豚肉――豚ロース――の上で誰かの手とぶつかってしまった
「「ごめんなさいっ」」
同時に謝り、同時に顔を上げる
目の前にいたのは中学生、か高校生…だろうか…
短い黒い髪と深碧の瞳
無防備なおでこが実年齢より幼く見せているのかもしれない
「ごめんなさい、前よく見てなくて
私今日は豚バラにするから、ロースは君がどうぞ」
にっこりとその無防備なおでこに笑いかけ
私は豚バラをかごに入れる
「あ…ありがとうございます…。」
目の前の男の子は礼儀正しくぺこりと頭を下げ
豚ロースをかごに入れそそくさと去って行く
あの年齢の男の子で夕飯の買出しなんて珍しい
しかもセールの時間を狙うとは、なかなか出来る子だ…
そんな他愛も無い事を考えながら、ゆっくりと夕飯のおかずを吟味していくのだった
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作者名：さのすけ | 作者ホームページ：https://twitter.com/sanomasa0810
作成日時：2019年6月9日 16時
