元祓い屋の現怪異。参

＠１０２ 花子 ページ4

花子side

シラベさんにキスされてるとき、抵抗できなかった


逆に愛しいという気持ちで胸がいっぱいになる


脳裏には旧校舎の女子トイレ


窓辺にいる女の子の顔を覗き込んでキスをする


微かに甘い香り


それと同じ匂いが今、シラベさんからしてる


これは誰の記憶…？


唇が離される


まだ、だなんて思ってしまうのが恐ろしい


シラベさんが踵を返して去ろうとする


髪が風に靡き、スカートを翻す


ズキンと頭が痛む


シラベさんが後ろを向くこの一瞬は何時間にも感じた


走り去るシラベさんの後ろ姿はなにか見覚えがあった


そう…教室だ


夕日で真っ赤になった教室の後ろのドア


女の子が俺の手を払って足音軽く走り去る


俺はなにもできずにただ必死に涙を堪えている


そんな中時間は過ぎて、次の日が来る


気まずいので少し遅刻していく


だいぶ前に借りていたハンカチ


これを返すという口実で話しかけよう


そう思ってたのに女の子はいなくて、


その子の席には、筆箱でもカバンでもなく、ただ、白い花が置かれていた


衝撃で目の前が真っ暗になる


逃げるように保健室に行き、放課後まで時間を潰す


不思議と涙は出てこない


放課後、ハンカチだけ返そうと重い腰をあげて教室に行く


昨日のように真っ赤に染まった教室


机の上には花瓶と、にくいほど完璧な笑顔の遺影


その隣にそっとハンカチを置いた


1人の生活には意外にもすぐ慣れた


ある日、ふと思って神社に寄った


御神木の白桧の木は大きな切り株を残して消えていた


後継者不足で神社は潰れてしまったらしい


ちっぽけな切り株を見下す


その子との思い出が今更ながらに蘇る


この神社も、きっと忘れ去られてゆく


あの子のことも覚える人はいなくなる


だから、俺が覚えていよう


周りのみんなが忘れてしまっても、俺だけは忘れない


楽しかったことも、愛しいことも、少し悲しかったことも


これから起こるはずのことだって、宝物にしよう


だから…俺は忘れちゃいけなかったんだ


目の前にいるシラベさんは階段に足をかけていた


また、逃げるのか


あの日のように後ろ姿を引き止められずに


本当はあの日、引き止めるべきだった


あの子が嫌がっても、泣いても、怒っても、そうするべきだった


あの日俺は置いてかないでと思った


でも違う。置いてったのは実際自分だったのだ


今回はちょっと違うけど、もう1人にしない


花子「A！！」


『っ？！』


Aは勢いよく振り向いてくれた


まだ、許してくれるかな…

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