その２。 ページ26
翔「子宮の中に赤ちゃんの入っている袋が見えなくて…。」
そう説明する間も、見落としが無いようにエコーの角度を動かす櫻井先生。
翔「妊娠検査薬…陽性だったんですもんね。」
患者「…はい。」
翔「…ちょっと一回降りてもらって、また隣でお話聞かせてください。」
手袋を外して、診察室のデスクに戻る櫻井先生の顔が、厳しい表情をしていて、私の胸もギュッと締め付けられるようだった。
翔「エコーの結果ですが、今回子宮の中に赤ちゃんの入っている袋がみられませんでした。排卵がずれている事も考えられますので、もう１週様子を見させて頂きたいんですが、もしかしたら、その間に生理が来るかもしれません。」
患者「はい。」
翔「生理が来なかった場合は、また１週間後にいらして下さい。」
妊娠検査薬で陽性がでて、赤ちゃんの姿が見られる事を楽しみにしていたのに、赤ちゃんがいない、なんて言われて、きっと患者さんはショックに違いない。
でも、泣きもせず、声を荒げることもなく、ただ冷静に櫻井先生の言葉に耳を傾ける患者さんを見ていると、何か声を掛けたい…そう思うけど、妊娠検査薬を使った事もない私が、掛けてあげられる言葉は見つからない。
翔「もし、生理が来た時は、いつもよりも重いかもしれませんが…生理だと思って頂いて構いません。ただ、何か心配になった時や不安な時は来て頂いて構いませんし、お電話頂いても大丈夫です。」
患者「わかりました。」
診察室に漂う、少し重い空気。
３日後、この患者さんから生理が来た。と、受付に電話があった。
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作者名：晴日。 | 作成日時：2012年12月18日 23時
