【wrwrd】無能に扮して (ページ8)

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階段を降りて自分の部屋の前の廊下へ続く曲がり角から、部屋の前に書類が放置されていないことを確認し、部屋へ入る。

グルさんからもらったファイルは、休憩時に使うソファの前に設置されたローテーブルに置いて、私は期限ギリギリの残った書類を片付けにかかった。
勿論、やっているのは彼奴らの分で、自分の書類にはまだ手をつけられていない。

はぁめんどくせぇ。

それでも私は無能でいないと嫌われる質やから続ける他無いんやけど。

私が出すべき書類は明後日。明日にでも｢不完全な書類｣を提出すればいい。
取り合えず今日は二人の分を終わらせよう。トントンにバレないよう細かいミスをしつつやっているため、これ以上遅らせたらトントンが可哀想だ。

目の下に隈を作る彼を思いながら私は手を動かしていった。

ふと気づけば夕方の４時。約三時間集中しっぱなしだったため目も腕も疲れた。

ペンを置いて、目頭を抑えて肩や首、手首を回す。

手を開いたり閉じたりしながら書類を見た。あとほんの数枚で終わる。

席をたち体を伸ばしていると、背後からノックの音が聞こえた。

｢誰？｣

ア｢A様、アイルにございます｣

｢鍵は開いています。どうぞ中へ｣

ア｢はい。失礼致します｣

入ってきたのは暗めの青髪で、物静かな雰囲気を纏うメイド、アイルだった。

彼女の手には一人分のティーセットを乗せた盆がある。

｢どうしたんですか？｣

ア｢お仕事をなさっているご様子でしたので、休憩にと思い、勝手ながらお茶を御用意しました｣

成る程。私の回りには有能しか居ないのか。

｢ありがとう。丁度一息つこうと思っていたところです｣

どうぞこちらへ、と先程ファイルを置いたローテーブルの方へと誘導する。ファイルは仕事机へ退けた。

彼女は手慣れた様子でお茶を注いでいる。
アイルはエミさんに紅茶とコーヒーの淹れ方を習っていたことがあり、彼女の淹れるそれらはとても美味しいのでよく仕事終わりに頼んでいる。

アイルが紅茶を淹れる姿を眺めていると、不意にトントントン、とノックの音がした。

今度は誰だろうと思っていると、｢A様私です！ネルです！｣と明るい声が聞こえた。

アイルは呆れた顔をして溜め息をついている。

ア｢...私が出ましょう｣

｢いえ、大丈夫です。私が出ますよ｣

扉を開けると、アイルと同じ位の短さで、彼女とは相対的な明るいオレンジ色の髪の子がクッキーの入った箱を片手に立っていた。