【wrwrd】無能に扮して (ページ33)

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「A君、君がいて本当に助かったよ。二度も助けてくれて本当に感謝している。何かお礼をしたいな...」

私は今、倭国の王室にいる。
助けた二人はやはり倭国のお偉いさんだったらしい。国の革命を担った、伝説の二人組だったそうだ。

「いえ、私は当たり前のことをしただけですから....」

「いやいや、本当に感謝しているんだ。なにせ...」

そこでかれは言葉を詰まらせた。
このシンプルでかつ上品な造りの王室は、立ち入った人が息をのむほどの美しさがある。特別な何かを置いてあるわけではない。だが美しい。謙虚な国民性が垣間見えるこの部屋に、彼と私が発する声以外に響く音はない。一瞬の静寂が部屋を包む。
が、彼は再び言葉を紡いだ。

「今回の旅は、彼らにとって最後の旅だったんだ。彼ら二人にとっての、「幕末志士」にとっての最後の仕事だったんだ」

思わず息をのんだ。

幕末志士。トントンは「幕末志士」を知っていて、彼らの話を昔一度だけしてくれたことがあった。

彼ら二人の名前に聞き覚えがあったのはそのためか。
今まで「幕末志士」という言葉が出てこなかったから気づかなかったのだ。

幕末志士。東洋の革命家。

「だから、君がいてよかった....。彼らにとって、君に出会えたのは不幸中の幸いだっただろう」

「...お助け出来て本当に良かったです。彼らは、仲がよさそうで、羨ましいくらいでした。彼らはきっと、親友なのですよね」

「あぁ。本当に仲が良かった。幕末志士が居なくなってしまうのは悲しいが、彼らが決めたことだ。それにまだ終わりじゃない」

「そうですね...またいつかお会いしたいです」

ふと思い出す二人の笑い声。あんな窮地に立たされてるのに、心底楽しそうな声で笑っていた。

また二人にお会いしてみたい。それは心の底から思えること。

また来ることを約束して、私は倭国を出た。あの妙に居心地の良い国から出るのは少し名残惜しかったが、時間は有限だ。
帰ったらやらなくてはならないことがたくさんあるんや。しゃーなし。

帰ったらトントンに自慢してやるかとも思ったけど、やめておこう。そもそもあいつは私の話聞かへんわ。

いーや。グルさんあたりに自慢してやろ。

私は港を出て速力を上げた船の甲板へでて、今出たばかりの島国を、今から帰る母国を、そして彼ら二人のにぎやかな声を思いながらぼんやりと潮風にあたった。

〇〇〇
１２年間お疲れさまでした

彼ら二人だけはどうしても出したかったんです