第十九話 ページ21
「なあ、主。きみの名前は？」
「物騒だな、急に」
私の傷も落ち着いて、通常を取り戻しつつあるこの本丸に不穏な言葉が響く。
「物騒とは失礼な」
「物騒だろうが」
私がそう答えると、鶴丸は『何故？』という顔をする。
「神隠しにでもあったら堪んないんだけど」
「俺がそんな事をすると思うかい？」
「思う」
即答すると、鶴丸は『酷い』と言うような表情をする。
審神者になりたての頃。
政府からの通知で『審神者は絶対に刀剣男士に名前を口にしてはいけない』と勧告を受けた。
理由は《神に真名を告げると、神隠しにあうから》だった。
刀剣男士と言えど、実質は付喪神。神の類いに変わりはない。
だから、
「どんな理由があろうと言わない」
「酷いなあ、きみ」
鶴丸は頭を抱えながらそう言うと、私の鼻の先まで顔を近づけて口を開く。美形が近い。
「きみ、俺にそんな力があると思っているのかい？」
「え、無いの？」
その一言に驚いてそう言うと、鶴丸は満足気に頷く。
「『神』と言っても、付喪神は物に憑く神だ。人を神域に隠せるほどの力など持ってはいない」
「へー」
そう説明してくれる鶴丸の声を、どこか遠くに聞きながら私は書類に目を通す。
「きみ！聞いているのか！？」
「聞いてる聞いてる。聞いてるけど、私の名前は言わない」
「えー」
一丁前に拗ねる初期刀を無視しながら私は書類に目を落とす。
『名前が知りたい』なんて。
そっか、審神者にとっては名前は気軽に口に出来るものじゃないのか。
淋しい、な。
鶴丸に名前を伝えられないのは、呼んでもらえないのは、どこか苦しい。
「『白藤』はきみの真名を文字ったものなのか？」
「え、違うけど」
「違うのか！」
一人で十面相をしている鶴丸が可笑しくて、クスリと笑いが零れる。鶴丸はそんな私を見て花が綻ぶ様に笑う。
「まあ、いいさ」
「ん？」
小さな呟きに視線を向けると、蜂蜜色の瞳に捉えられる。
「きみは
ねえ、鶴丸の言う『俺の』にはどんな意味が込められてるの？
「大切な人の名を知るまで、死ぬわけにはいかないからなあ」
まあ、私が死ぬ直前くらいなら言っても良いけど。
「きみが自分から言ってくれるまで、何度だって聞くさ！」
「…そう」
眩しいなあ。
これから冬を迎えるはずなのに、真夏の太陽な笑みに焼けそうになりながら、また書類に目を落とした。
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紫苑(プロフ) - うすしおタルトさんの作品大好きです!『好きです、和泉一織くん。』も最高でした!! (2022年1月23日 9時) (
レス) id: c54a88bcf6 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 号泣しました（ ; ; ）この小説を読んでもっともっと鶴丸が好きになりました！こんな素敵な小説書いてくださって本当にありがとうございました！ (2019年2月17日 13時) (レス) id: 749d380e6b (このIDを非表示/違反報告)
莉奈 - 涙が止まらない！でも他の皆は？ハッピーなのかバットエンドなのか｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ (2019年1月22日 0時) (レス) id: aaa5551089 (このIDを非表示/違反報告)
るみ奈 - 読みながら、ただひたすら涙が止まりませんでした…。超感動しました！多分これまでで一番かもしれないです。鶴さん大好きです。これ読んだら、より好きになりました。他の作品も頑張ってください！応援してます！ (2018年10月12日 1時) (レス) id: 47df6e8b39 (このIDを非表示/違反報告)
Rose(プロフ) - 完結お疲れ様です！こんなに泣いてしまった夢小説は初めてです。語彙力が無さすぎて伝えきれないんですけどとりあえずありがとうございました！これからも応援しています！ (2018年7月20日 1時) (レス) id: e1b4e7d96d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：うすしおタルト | 作成日時：2018年4月18日 19時
