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扉の前で上がった息を整えていると、中から先生の声が聞こえてきた。
その声はしっかりとしていたから、ひとまずほっとして胸を撫で下ろす。
先生は誰かと話しているようだ。
相手の声は聞こえないから、多分電話している。
これ、入っていいのかな、電話の邪魔にならないかな、と扉の前で逡巡していると、
「…ですから、入院の話はお断りしたはずです」
え?
思わず声に出してしまいそうで、慌てて手で口を塞ぐ。
入院って、先生そんなに具合悪いの?
心臓がバクバクと脈打っている。
それを中にいる先生に悟られないように、息を落ち着かせる。
これは聞いてはいけない話だ。
そう思ったけど、私の両足は強力な磁石でくっついたように動かなかった。
駄目だと分かっていながら、両耳に全意識を集中させる。
「オピオイドもまだ残ってますから」
目の前の景色がぐにゃりと歪んだ気がした。
オピオイド。私はその名前を知っていた。
鎮痛剤の名前だ。
癌の。
膝に力が入らない。
口を塞いでいた手も、いつの間にかだらりと下がっている。
「…はい。残り1年、宜しくお願いします」
先生はそう言い終えて電話を切った。
残り1年、てなんですか。
なんですか、先生。
ガラ、と力任せに扉を開けた。
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さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです更新頑張ります! (2019年5月3日 20時) (レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです!いつも楽しみにしています!もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます! (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな×りお | 作成日時:2019年4月24日 22時