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そうこうしてるうちに、手は正しく鉛筆を握っていた。
「じゃあ描いてみて。始めは見よう見まねでいいから」
「はい」
描いている間、先生は一言も喋らずに私が鉛筆を動かす様を見つめていた。視線のぶつかる右半身がじりじりと焼かれるようで、正直とても描きにくかった。
「できました」
先生は私のデッサンを覗き込んで、
「ああー」と苦笑いした。
「ああってなんですか」
文句を言いつつも、まあ仕方ないかと自分が描いたものを見る。
全体的にのっぺりしていて厚みがない。
これじゃ球というより、ただの丸だ。
「じゃあ今から修正加えてくから、見てて」
先生は私と交代して画用紙に向かい合い、素早い手つきでデッサンを直し始めた。
ささっと軽快な動きで鉛筆が画用紙を滑り、デッサンの様が段々と変わってくる。
ちんまりと画用紙に置かれていた丸が、みるみる立体的になっていく。
まるでマジックでも見せられているようで、先生の手元から目が離せなかった。
すごいな、と思った。
手を伸ばせば取り出せてしまえそうな程本物の球と瓜二つで、心の底から感動した。
「すごい…」
思わず呟いていた。意図せず、口からぽろっとこぼれてしまっていた。
「先生、すごいです！ほんとすごい！
どうしたらこんなふうになるんですか？！」
そう言って先生を見ると、先生は驚いたように目を丸くしていた。そこで、自分がかなり大きな声を出していたことに気づく。恥ずかしくなって、かあっと頬に熱が集まった。
「ははっ」
「…え？」
先生は笑っていた。
「…なんで笑うんですか」
「いや、そんな顔もするんだと思って」
言われて、頬がどんどん熱くなる。
むかついたので、机の上にあった白い球を先生に投げつけてやった。発砲スチロールでできているから、ダメージはほぼ皆無だ。ぽす、と情けない音を立てて先生にぶつかり、そのまま床に転がり落ちる。
「駄目じゃないか、物は大切にしないと」
先生は球を拾いながら謳うように言った。なんだか子供扱いされているみたいで、更にむかつく。
「まあでも、喜んでもらえたならよかった」
そう言って、先生は照れたようにはにかんだ。眼鏡の奥の目を細めて、笑う先生。
何故だか、素敵な笑顔だなんて思ってしまった。
こうして毎週火曜日、私は柊先生から指導を受けることになった。
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さな×りお(プロフ) - かなとさん» 指摘していただきありがとうございます。訂正いたしました。 (2019年4月1日 18時) (
レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
かなと - 編集画面をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年4月1日 16時) (レス) id: 977ff24faa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さな×りお | 作成日時：2019年4月1日 15時
