憎しみの中にも慈しみを ページ41
呆気なく、本当に呆気なく、はらはらはらと鬼が塵になって消えていく。常人より無駄に長かった生の終焉というのに、鬼は何も言わない。虚ろな目をしてカスミ、カスミと、呟いている。
「カ、スミ、あ、ぁ、ごめん、ごめ、んな、ご」
鬼の体がなくなっても、口だけは無機質に動いている。もう死の直前だ。放っておいても問題は無いだろう。
町長にかける言葉など口下手な義勇には見つからず、
その場を去ろうとする。だがAは違った。
「!」
Aは崩れていく鬼の横に跪き、その亡骸を抱いた。慈悲を持ったその姿は、さながら聖母や天使のような、とても神聖なもののように義勇には見えた。
口枷をしているから何も言わないが、きっとなかったらAは優しい言葉をかけていたことだろう。
「あ、あり、ありが」
おそらく礼を言いかけた鬼は安らかな顔で目を閉じた。Aの温度に触れながら、その人生に幕を引いたのだった。
「町長、俺達はもう行きます。町人には退治したとだけお伝えください」
町長の返事を聞く前に義勇は歩き出す。Aも着いてくる。いつの間にかAの額の傷は綺麗に治っていた。
____
「A」
「なあ、に、ぎゆ」
人が居ないのをいいことにAの口枷を外し、自然に手を繋ぐ。暗い道を月明かりを頼りに歩いていく。
目的地など決めてはいない。強いて言うなら藤の家紋の家だろうか。
「どうしてあの鬼に慈悲を与えた?」
意図せずに言葉が冷たくなってしまう。仕方がなかった。
義勇にとって鬼というのは憎いものだ。許せないし許そうとも思わない。
鬼殺隊に入り初めて鬼を斬ったが虚しいだけだった。
鬼を殺しても殺された人は戻らない。
俺の大切な人は俺を庇って死んだ。
俺があの人達にしてやれることは何一つ残っていない。
町長や親しい者を亡くして悲しむ人々を見て、それが再確認できてしまった。
「........おに、になっ、て、ひとをころ、しても、こうかい、しているひと、は、みんな、きぶつじむざんの、ひがいしゃ、だから。わたしは、」
憎しみの中にも慈しみを持ちたい。
目の前を何か大切なものが通り過ぎた気がした。だが、それが何なのか義勇にはわからない。
「そうか」
こうして、後に水柱となる冨岡義勇の初任務は終わりを迎えた。
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佳恋(プロフ) - 氷柱 氷龍さん» ございます!救済しましょうかねwこれからもご愛読よろしくお願いします!! (2020年8月4日 11時) (レス) id: 052cbbf88a (このIDを非表示/違反報告)
氷柱 氷龍 - お願いしますカナエさんを出来れば死なせないでください!面白いです!w(゜o゜)w<WOW (2020年8月1日 17時) (レス) id: bd22a3d64d (このIDを非表示/違反報告)
佳恋(プロフ) - dinner bornさん» あ!そうですごめんなさい!途中で設定変えたんです!直しときます!! (2020年5月23日 16時) (レス) id: 49831120ad (このIDを非表示/違反報告)
dinner born - 父親は他界済みとあるのに、ページ12には父親が1番に目を覚ましていました。 これは、作者のミスでしょうか.........? (2020年5月23日 15時) (レス) id: 1da8ba8178 (このIDを非表示/違反報告)
佳恋(プロフ) - 光華さん» ですよね!煉獄さんは神ですから死んで欲しくないですよね、、(切実)柱続行は無理でも、必ず死なせません!!笑コメントありがとうございます!励みになります!! (2020年5月13日 9時) (レス) id: 49831120ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:佳恋 | 作成日時:2020年4月25日 13時