ー花火ー 今市隆二 × 登坂広臣 ３

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「隆二さん今……何て言っ…」


隆「…聞こえてなかった？」


「音で…聞こえなく……って」


隆「まじ……か」






抱きしめられていた身体は
するっと開放されて


手すりに思いっきり額を打つ隆二さん。
ゴンッと鈍い音が響いた。









隆「俺……カッコ悪っ……」





痛そうに額を擦りながら
何故か笑っていて。

思わず、緊張が緩んでしまう。







隆「やっぱり…我慢…してたんだね…」





隆二さんの親指が下まぶたを
流れるようにすーっとなぞる。




一度許したら溢れ返って
涙が何度も頬を伝ってしまう。









隆「そんな…泣かないで…」





目の前であたふたしながらも
優しく拭ってくれて。







隆「今日で、その…何か…」







急いで持ってきたティッシュで

優しく、私の顔を拭きながら
そう問いかける。



その言葉は曖昧だけど、
何を聞きたいのかは…分かってた。








昔の想い出がいつも影を残して、
新しい恋に踏み出せない…

ーー臆病者の自分。









隆「嫌だったら…何も言わ」



「今日の花火……凄く綺麗でした」









私を見つめた優しい眼差し。
目元が弧を描いていく。








あの時見上げた花火。


ぽつんと独りでベンチに腰を掛けて…
夜空を見上げてた。


乱れた浴衣で無感情のまま、何も感じず。
心打たれるものは……何も。






私も間接的な言葉で返してしまったけど、

全部話を知ってる隆二さんには、
充分……伝わったはず。






隆「じゃあ…一歩？」


「足取りは軽い……かもしれません…
誰かと…一周できそうです…」







核心に迫ることがない、
間接的で婉曲な会話。




他人が聞いたらきっとーー
何？散歩の話？……だと思う。




でもそのあえての距離感。


隆二さんって…
本当に底なしに…優しい。









すると急に雰囲気を一風させるような
明るい声が届く。








隆「俺ってさ……
ただのお隣さんって感じっ？笑」



「ち、違います！」







ティッシュの山を集めながら
その背中でまた聞いてくる。







隆「頼れる友達位はなれてるっ？」



「はい、もう充分すぎる位…」





その言葉にやったと漏らした隆二さん。







せっかくの料理は冷めてしまったけど、
心はもう温かくて…ぽっかぽか。









隆「本当に、さっきの聞こえなかった？」
　


「最後の時…ですよね？」



隆「そ、そう…………」
　

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