恩人 ページ21
心地よいそよ風がAの髪を揺らす。
三成と出会ったところから少し離れた場所に立てられた墓石を前に、Aは戸惑いを隠せなかった。
「あの部屋は、半兵衛様がよく使用されていた御部屋だ」
「はんべえさま？」
「思えば貴様が言っていた恩人の特徴も半兵衛様なら合点がいく」
竹中半兵衛。
豊臣の軍師であり、秀吉の右腕であった男。
天性の智を持ちながらその身体は病に蝕まれ、まもなくして豊臣の天下を見ることなくこの世を去った。
彼もまた、白銀の髪の持ち主だったという。
三成から大まかな話を聞いたあと、Aは目の前の墓石をじっと見つめ、手を合わせた。
「……貴様もつくづく恵まれないな」
「恵まれない、ですか。私はそうは思いませんよ」
野原に咲く花を摘み、それを手向けの花とする。
風で飛ばされぬよう上手い具合に石と石の間に茎の部分を差し込んだ。
「会えただけでも嬉しいんです。あの人の名前も、素性も、何も知りませんでしたから」
そう言ってAは悲しそうに笑う。
本当はお礼を言いたかった。
だが今更そう願ったところで叶うはずもない。
生きていることは後悔の連続だ。
それに嫌気がさして、逃げ出したくて、人はいずれ訪れる死を催促したがる。
Aもかつては自らの命を絶とうとした。
酷い後悔の念が彼女を蝕み、生きている心地すらしないままその魂を天へ返そうとした。
だが半兵衛と出会い、自分の生き方を自分で見つけたからこそ、今こうして生きている。
「私、ここに来てよかったです」
恩人を見つけた達成感と熱が込上げる。
すんっと鼻をすすり、Aは隣にいた三成に礼を言った。
「本当にありがとうございました。三成様がいなかったら、きっと見つけられなかったと思います」
「……何故礼を言いながら泣く」
「分かりません。なんだか色んなものが込み上げてきて……」
ぽろぽろと溢れる涙を袖で拭うAを見て、三成は再び彼女の腕を取り、震える口元に軽く口付けをした。
それは優しく、とても温かい。
「……これで気休めになるのだろう？」
目を丸くしていたAは、真剣な眼差しで告げた三成に思わずぷっと吹き出した。
「何故笑う？」
「いえ、本当に優しい人だなと思っただけです」
小さな空間で、戦とは程遠い穏やかな時間が流れゆく。
しかし世は常に乱れている。
それは、人の心とて例外ではないだろう。
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三楓(プロフ) - こゆきさん» コメありがとうございます！三成様は主人公が悲しいから泣いていると思って、それを取り除いてあげようとしたようですね...（笑）楽しんで頂けて嬉しいです！これからの展開も楽しんでもらえるよう更新頑張ります(*´∀｀*) (2018年10月18日 1時) (
レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
こゆき - 三成から口付けをしたんですか！？意外と三成って積極的ですよね笑 でもなんだか病みそうな気配が……。ものすごく楽しいです！！(>ω<*) (2018年10月17日 23時) (レス) id: f544f7d6d0 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - こゆきさん» いえいえ、こちらこそ貴重なご意見ありがとうございました！アニキのシーンは一旦終わってしまいますが、再び登場しますので気長に待って頂けると嬉しいです(*´∀｀*) (2018年10月8日 19時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
こゆき - いつも更新お疲れ様です！きゃあきゃあしながらいつも見てます笑笑 アニキ登場！！！！！私の希望に答えていただき、本当にありがとうございます(´ω`*)とても嬉しいです！ (2018年10月7日 21時) (レス) id: f544f7d6d0 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - こゆきさん» コメありがとうございます！さぁ...いつ病むのでしょうかね...？（笑）アニキも登場しますので今後の展開をどうぞお楽しみください(*´∀｀*)更新の方も頑張ります！ (2018年10月7日 14時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三楓 | 作成日時：2018年10月5日 23時
