隠れ蓑 ページ14
三成とAが城内に入ったことで、裏口の門が完全に閉じる。
それぞれの門には武装した兵士が見張りにつき、城内の空気も張り詰めていた。
この緊張感は只事ではないと流石のAも息を呑む。
「こっちだ」
三成に案内されて向かった場所は奥の一室。
部屋の中からは唸り声と怒声が飛び交い、襖の先には危篤状態の男が横たわっていた。
男の周りにはくすんだ紅色の手拭いが散らかっている。
首筋を斬られたのか、医者が手拭いで止血を試みているが、見ての通り未だ出血は止まっていない。
「失礼します」
「な、なんだ君は！」
Aは医師が押さえていた手拭いを取り、男のぱっくりと斬れた傷口に唇を当てる。
押さえるものがなくなった鮮血はAの唇を赤く染め、鉛の風味で鼻の奥を刺激した。
あくまでもこれはただの止血。
決してやましいことをしている訳では無い。
そう理解していても、見ている方は何とも後ろめたい気持ちになるようだ。
溢れ出す血を舌で舐めとる仕草、傷口を覆う唇の動き。それを変に意識してしまい、とうとう三成は治療から目を逸らした。
「止血、終わりました」
報告をすると共にAは手の甲で血が付いた口元を拭う。
先程まで出血が止まらなかった傷口には、ぷっくりとしたかさぶたが出来上がっていた。
「馬鹿な。あれでかさぶたが出来るなんて」
「応急処置みたいなものですので、あとの手当てはお任せします」
驚いた様子の医者にぺこりと頭を下げ、Aは三成の元へ戻って行く。
「……まさか本当に」
「あれ、もしかして信じてませんでした？」
頬を掻きながら苦笑いをするA。
血で汚れた部分を井戸の水で洗い流し、部屋で待機していろと三成に命じられ、そのまま部屋へ戻って行く。
その間三成は、兵士から聞いた内容を更に詳しく聞くために参謀の元を目指した。
昨夜の夢といい、今の応急処置といい、彼女の力が本物であることは信じざるを得ない。
そして今回のことで新たな確信が芽生えた。
あの女は間者ではなく、
大阪城に潜り込んだ敵の間者は、別にいる。
「(……誰が奴の手下だ？)」
すれ違う兵士や女中、全てが怪しく見えてならない。もし手当り次第刀を抜けばそれは向こうの思うツボ。
疑心暗鬼になった三成は左手に持った愛刀を握り締める。
神聖なるこの城に未だ間者が潜んでいる事実は彼に恥と不快感を与える代物でしかなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ヤンデレ」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三楓(プロフ) - こゆきさん» コメありがとうございます！三成様は主人公が悲しいから泣いていると思って、それを取り除いてあげようとしたようですね...（笑）楽しんで頂けて嬉しいです！これからの展開も楽しんでもらえるよう更新頑張ります(*´∀｀*) (2018年10月18日 1時) (
レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
こゆき - 三成から口付けをしたんですか！？意外と三成って積極的ですよね笑 でもなんだか病みそうな気配が……。ものすごく楽しいです！！(>ω<*) (2018年10月17日 23時) (レス) id: f544f7d6d0 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - こゆきさん» いえいえ、こちらこそ貴重なご意見ありがとうございました！アニキのシーンは一旦終わってしまいますが、再び登場しますので気長に待って頂けると嬉しいです(*´∀｀*) (2018年10月8日 19時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
こゆき - いつも更新お疲れ様です！きゃあきゃあしながらいつも見てます笑笑 アニキ登場！！！！！私の希望に答えていただき、本当にありがとうございます(´ω`*)とても嬉しいです！ (2018年10月7日 21時) (レス) id: f544f7d6d0 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - こゆきさん» コメありがとうございます！さぁ...いつ病むのでしょうかね...？（笑）アニキも登場しますので今後の展開をどうぞお楽しみください(*´∀｀*)更新の方も頑張ります！ (2018年10月7日 14時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三楓 | 作成日時：2018年10月5日 23時
