この雫を誰か抱いて ページ42
「どけよ、お前」
一人の生徒に爆豪は怒鳴る。
「何だよ、お前もやられたいのか!」
彼は身じろぎ一つしない。言葉を続けようとした爆豪はその目を見て思わず黙った。
これ以上口を開くな。
赤い目がそう言っている。
クラスが静まり返ると、その少年はAの側にしゃがんだ。そっと肩に触れる。
「A」
まばたきをして溜まっていた涙を落とすと、目の前に常闇の姿が見えた。その顔は悲しみとも哀れみともつかないものだった。
なんで、ここにいるんだろう。
弱々しく彼の手をはねのける。拒絶された常闇はうつむいた。
「……ごめん」
謝らないで……あなたからそんな言葉聞きたくない。
──でも
続きが聞こえたと思ったら両肩をつかまれる。
──俺は
驚いて彼の顔を見ると、紅眼がギラギラ輝いていた。
「たとえ、世界中の奴らがお前を障害者として忌み嫌ったとしても、
俺はお前の味方だ。
それだけは信じてほしい」
Aは唇をかみしめた。また涙があふれだす。
私は、彼を信じていいのでしょうか。
それとも、彼の幸せのために独りでいるべきでしょうか。
ああ
……ごめんなさい、自己中で。
常闇の胸に手をのせる。そして、真っ直ぐそのまなざしを見つめ返した。瞬間、常闇はAを優しく抱きしめた。
「信じて、くれるのか」
彼の首に腕をまわして小さくうなずく。
「A……俺はな、声がないことが悪いことばかりではないと思うんだ。確かに迷惑をかけたり気持ちをちゃんと伝えられなかったりしてつらいだろう。
だが、もし声を持っていたらAに会うことはなかった。
あのとき見せてくれた『ありがとう』を思いだすこともなかったんだ。
だから、その……俺は」
──声がないことはAの個性だと思う。
こせ、い?
「ない」のに「ある」の?
障害じゃなくてこれは、みんなが認めてくれる個性なの?
ボロボロと涙が落ちていく。止めようと思っても心のダムが破壊されたように常闇の制服をぬらしていく。怖くてギュッとその服を握った。
やだよ、もう。胸の中がぐちゃぐちゃだよ。
さっきまで罵倒されてたのに今はあたたかいなんて……。
絶望と幸福が混ざり、目の前がプツリと真っ暗でドロドロの液に染まった。
「A!? A!!」
74人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちづる(プロフ) - いきなりリプ失礼します。キャラクターたちの心情や常闇くんの優しさ、夢主ちゃんの考え方めちゃくちゃ好きだと思いました。続編が読みたいのが本心なのですが... (2021年5月10日 5時) (レス) id: 97693b4be7 (このIDを非表示/違反報告)
ホープローズ - 速報!本日は私、ホープローズの誕生日なのでヴィラン連合・プロヒーロー・ヒーローの卵達からの祝いの言葉を貰いたいです。お願いします。 (2019年8月23日 12時) (レス) id: 681e9ae1c6 (このIDを非表示/違反報告)
はづき(プロフ) - 常闇くん。常闇くん。ホントに好きです。大好きです。最高かよ( ˙-˙ ) (2019年7月31日 12時) (レス) id: 6ca8581b98 (このIDを非表示/違反報告)
アメジスト - んぱ(・-・)!← (2019年6月18日 22時) (レス) id: 779ef83f8c (このIDを非表示/違反報告)
響香(プロフ) - 常闇くんチョー好きです!これからも宜しくお願いします! (2019年6月12日 17時) (レス) id: b61ceed5ed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:蔦虎 | 作成日時:2018年4月22日 0時