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「ふふ......炭治郎、いい匂いする」
「A、これ以上は、まずい......」
「ふふふー、たんじろお」
本当に、途轍もなく、まずい。Aから、ずっと甘い匂いがしている。こんな言い方は好きではないが、男を誘うような匂いだ。そして、俺もそれに当然のようにあてられている。
いつもは抱き締めると少し強ばる体が、柔らかく解けて自ら自分に擦り寄ってくる。それだけでも充分まずいのに、この可愛らしい甘え方だ。本当に、このひとは、俺をどこまで試したいのだろう。
「A、駄目だ。このままだと、本当に、滅茶苦茶にしてしまう。善逸と約束したんだ。善逸の厚意を、私利私欲に使わないって」
「んー、んー?うん、そーなの......ねえ、私もぎゅーってしていい?」
「話を聞いてるか!?」
「んふふー」
駄目だ本格的な酔っぱらいだ。こちらの都合などお構い無しに、了承もしていないというのにAは俺の背中へ手を回すようにしてしがみついた。Aから腕を通して抱き着かれたのは初めてかもしれない。感触が、より近くに、ある。柔らかい。温かい。
「......俺は長男だ......俺は長男......」
「んー、たんじろ〜、ふふ、ふへへ......炭治郎、炭治郎だぁ〜、えへへ」
「A、頼むから、酔っていない時に積極的になってくれ......」
善逸との約束を抜きにしても、酔った想い人を手篭めにするような真似はしたくない。正直、頭痛がするほど可愛らしい。そして、心底目に毒だ。抱き締めていれば顔が見えないからその可愛らしさを鼓膜で感じるだけに留めておけるが、その分密着しているから色々と抑えが効かなくなる......匂いがより近くにあるのも困りものだ。
「っ......A、すまない!これ以上は本当に俺がもたないから、とりあえず屋敷までAを送り届ける!こういったことは、Aに酒が入っていない時に頼む!」
「なんでえ......?たんじろわたしのこときらい?」
「違う、好きだ。好きだから、酔っているAに手を出すようなことはしたくないんだ」
分かってくれ。
そう囁いて、再度彼女を横抱きにした。また可愛らしい駄々をこねられるかと思っていたが、屋敷へ向かっている途中に彼女は能天気にもすやすやと眠ってしまった。
もう、本当に、心配になるほどに無防備だ。いくつかあけられた釦、その隙間から覗く白い肌も、赤い顔も、静かな寝顔も、全部。
「......おやすみ、A」
ベッドに横たわらせた彼女の額に、これぐらいは許されるだろうかと願って、唇を落とした
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さざんか(プロフ) - 外で思いだすだけでキュンキュンして泣きそうになります…素敵な作品をありがとうございます!新作アンケも失礼しました…! (2020年11月14日 0時) (レス) id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 久しぶりに心から焦がれる素晴らしい作品に出会えて嬉しいです^ - ^本格的に冷え込む季節となりましたので、体調にはお気をつけてお過ごし下さいませ.更新を心待ちにしております (2020年11月13日 0時) (レス) id: e9e3f41ae9 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 初めまして、めっちゃ面白いです!!すごくキュンとしますっ/// 炭治郎の態度の急変…切ないです(泣)続き気になりすぎます…!!続編も全集中で拝読したいです(*^▽^)/★*☆♪応援しております!! (2020年11月11日 2時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 更新大変だと思いますが、とても楽しみにしています。これからも応援していますね。新作アンケート…冨岡さん好きなので、お願いしたいです。 (2020年11月7日 6時) (レス) id: 91f917202d (このIDを非表示/違反報告)
しろ(プロフ) - 久々にドキドキする話でした、、続き楽しみです! (2020年11月6日 20時) (レス) id: f83c25335c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2020年10月24日 12時