師範。 ページ5
「お師匠、聞きたいことがあります」
「......なんだ」
任務から帰宅した師匠が久しぶりに稽古を付けてくれると言うので、打ち合いになって早一時間。左右で色の違う双眸は、私からの質問が珍しかったのか怪訝そうに少し細められた。
「好き、とはなんですか」
「は?」
木刀を互いに持ち合い、向き合った状態で質問することではなかったのだろう。一気に師範は顰蹙した。
「昨日、好きだと言われました。一番好きだと言われました。でも私は、人に好きなんて言われたことがなかったので、逃げてしまいました。どうするのが正解だったんでしょうか」
「......それは稽古中に聞く話か?」
「違いますけど、師匠どうせすぐ出て行っちゃうから今聞こうと思って」
「くだらない色情話を稽古の場に持ち込むな。そもそも、いつまで経ってもお前が蛇の呼吸の型を完璧に仕上げられないから俺がこうして時間を」
「お師匠色恋の話なんか疎いですもんね。失礼しました」
ぴくり、と師匠の白い肌に青筋が浮かぶ。
付き合いがそれなりに長いからこそ言えることだが、師匠は気難しいだけで案外扱いやすい。
「黙れ。子供のお前と色恋の話なんかして、寒くて身が凍えてしまったらどうする」
「だから、分からないんです。私師匠のこと好きですけど、私が師匠を好きって思う気持ちと、昨日言われた好きの気持ちとどう違うのか、分からないんです。だから、その人と向き合いようもないじゃないですか」
「......」
師匠ははぁっと溜息をつき、座れと短く一言放った後人差し指で床を指した。木刀を置き、言われた通りその場に正座した。師匠は座らない。こちらをぎょろりと見下すようにして目をやるだけだ。
「いいか、お前は何も理解していないし、お前の考え方では一生その感情を理解出来ない。まず、理解しようとするのが間違いだ。そいつと向き合う?大層な口を聞くな。一度逃げた時点で答えは出ている」
「......そういうものでしょうか」
「お前は人の負の感情と他人の目線に敏感なばかりで、好意にはまるで無頓着だからな。自分自身の好意にも、他人の好意にもだ。まずお前の口ぶりからして、お前が言われたのは同年の人間だろう。十代半ばで、一番好き?頭が相当惚けているな。目覚ましに、今度すり潰した鷹の目を眼球にすり込んでやるといい」
「師匠今日厳しいですね」
「分かればとっとと刀を握れ。次に稽古中その話を持ち込んでみろ、破門するぞ」
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さざんか(プロフ) - 外で思いだすだけでキュンキュンして泣きそうになります…素敵な作品をありがとうございます!新作アンケも失礼しました…! (2020年11月14日 0時) (レス) id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 久しぶりに心から焦がれる素晴らしい作品に出会えて嬉しいです^ - ^本格的に冷え込む季節となりましたので、体調にはお気をつけてお過ごし下さいませ.更新を心待ちにしております (2020年11月13日 0時) (レス) id: e9e3f41ae9 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 初めまして、めっちゃ面白いです!!すごくキュンとしますっ/// 炭治郎の態度の急変…切ないです(泣)続き気になりすぎます…!!続編も全集中で拝読したいです(*^▽^)/★*☆♪応援しております!! (2020年11月11日 2時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 更新大変だと思いますが、とても楽しみにしています。これからも応援していますね。新作アンケート…冨岡さん好きなので、お願いしたいです。 (2020年11月7日 6時) (レス) id: 91f917202d (このIDを非表示/違反報告)
しろ(プロフ) - 久々にドキドキする話でした、、続き楽しみです! (2020年11月6日 20時) (レス) id: f83c25335c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2020年10月24日 12時