いつの間にか求婚を承諾していた【竈門炭治郎】

追憶。 ページ27

٭ ❀*



浴槽に映った自分のぼーっとした間抜けな表情が、身じろぎで出来た波紋に流されてゆく。

ふぅっと息を吐いた私の首筋には、散った花弁のようなあとが斑にあった。接吻痕、というらしい。どこか艶かしくも見える斑模様を抑えると、そこに熱が篭るような感覚に襲われて、今日のことを思い出してしまう。


『A......』


鼓膜に直接注がれた、熱っぽくて蕩けるように甘い声を思い出して顔に熱が集まった。


『可愛い。とても可愛い』
『好きだ、もっと触れたい』
『Aはずっと可愛くて、ずっと綺麗だ』


恥ずかしげもなくぽんぽんと出てくる砂糖の塊のような言葉の数々に、叫び出したくなるようなこっぱずかしさを覚えてざぶんと浴槽の中に沈んだ。

可愛い？私が......？綺麗？好き？どうして。

どうして私が、可愛い？どうして私を、好き？


『汚い』『お前なんて産まなきゃ良かった』『醜い子だね、本当に』


そうだ。私は醜くて汚くて、産まれてきたのが間違いで......


『A、好きだ』『明日も明後日もその先もずっと好きだ』


ねえ炭治郎、どうして？苦しいよ、分からないよ。

炭治郎はどうして私が好きなの？どうして私なの？私は醜くて根暗でいいところなんてどこにもない、役立たずの木偶の坊なのに。

そんな私を、どうして好きだと言ってくれたの？触れたいと望んで、求めてくれたの？

どれだけ求められても、どれだけ好きだと言われても、私は貴方に同じものを返せないかもしれないのに。でも、そう言っても貴方は私のことが好きだという。可愛い、綺麗だなどと散々褒めちぎった挙句に触れたい、抱き締めたい、接吻がしたいとこちらへ迫ってくる。

生まれて此方、求められたことも好きだと言われたこともないので、何をどう返すのが正解か分からない。ただ、炭治郎に触れられるのは何故か心地が良くて、嫌いではないからと好きにさせてしまっている。炭治郎に抱き締められるのが、好きだ。あの分厚くて暖かな手に撫でられるのは、不思議な程に心地よい。

けれど、私が感じている心地良さは、きっと炭治郎が私に向けている感情とは違う。

嗚呼、また、分からなくなる。彼にどう向き合えばいいのだろう。


(......炭治郎)


最近ね、私、貴方のことばかり考えているの。

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