いつの間にか求婚を承諾していた【竈門炭治郎】

発端 ページ2

多分その子供は、途轍もなく純粋だったのだろうと思う。


「あの子、根暗！」


母親に繋がれたのとは逆の方の小さな手で私を指さし、曇りのない眼でそう言い放った。恐らく覚えたての言葉だったのだろう。いったいどこで覚えたのかは知らないが、任務帰りで疲労困憊していた私には刺さる言葉だった。

疲労を言い訳に幽霊のような顔で俯きながら歩いていたとはいえ、そんなにも純粋で残酷な言葉を投げ付けなくて良いじゃないか。

ほつれひとつない黒髪をきっちりまとめた母親は、自分の子供の発した言葉にさっと顔色を変えて「やめなさい、こら、やめなさい」と2度繰り返した後私の方を振り向いて何度も頭を下げた。

その謝罪ってなんの謝罪ですか。根暗に根暗っぽいと叩き付けたお子さんの正直さを詫びてるんですか。素直でいいお子さんですね。きっとこれからもすくすく育つんでしょう私とは違う明るい子にね。

そう思いつつも一言も返せないまま会釈を返すから、私は根暗のままなのだ。きっとみんなだってそう思ってる。出会った当初、同期の伊之助に「おめー死んでねえのに死体みてえな顔してんな！！」と言われたことを思い出して更に沈んだ。


「A、A、大丈夫か？」


突然視界に入った市松模様にぎょっとして足を止める。反射的に上げた顔の視界は相変わらず前髪で光が遮られていて、黒い線の隙間からちらちらと見える健康的な肌色、額に浮かぶ痣と真っ直ぐで綺麗な臙脂色の瞳から、目の前に居る人物を判別する。


「たん、じろう」

「任務からの帰りか？随分顔色が悪いな......大怪我をしている様子もないし、どうしたんだ？気分が悪いのか？」


心配そうな表情を浮かべる彼の顔を見て、なんて心優しいんだろうと思う。私もこのぐらい人が出来ていたらな......などと、すぐに負の方向へ繋げてしまうのは悪い癖だ。


「......さっきから、ずっと悲しい匂いがする。もし聞いて欲しくないことなら、もう聞かない。でも、話して楽になることなら話してくれ」

「え、いや......」


子供に指を指されて根暗だと言われました。なので落ち込んでいます。

などと言えるはずも無く、そんなに大したことじゃ......と俯いて誤魔化すが、炭治郎の視線があまりにも真っ直ぐで、さっきからずっと体がびりびりしている。視線は苦手だ。向けられる感情や気持ちや目線、全部全部苦手だ。

特に、炭治郎のようなひとは


「じ、自分に、自信が持てなくなって」

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