口唇。 ページ21
あれ以上人々から好奇の目を向けられるのに耐えられず炭治郎を無理矢理人通りの少ない路地裏に引っ張ってきたが、ここなら良いかと振り返ると、炭治郎は何故か嬉しそうな顔でこちらを見ていた。
割と強引に引っ張って来てしまったから謝ろうとさえ思っていたのに、何故嬉しそうに笑っているのだろう。
「......なんで嬉しそうなの?」
「えっ......あぁ、すまない。顔に出てたか......いや、ただ、Aから手を握って貰っているのが嬉しくて......あと、Aの後ろ姿もすごく愛おしかったんだ。やっぱり、好きだなぁって思って」
なんでそんなことを、恥ずかしげもなく言えるんだろう。聞いているこちらが恥ずかしくなってくる。意味分かんない、と言って思わず目を逸らすと、「A」とただ名前を呼ばれて、私が放した手をまた握られた。
もうすっかり、炭治郎の手の感触を覚えてしまった。かたくて、ごつごつしていて、傷が多くて乾燥気味。けれど、握られると、不思議と心がふわりと和らぐ。
「A、触れても良いか......?ずっと、我慢していたんだ。俺が強引にAに迫って、傷付けてしまったと思ったから、顔も見せない方が良いと思って会いにも行けなかった......」
「あ......」
「だから、今日甘味処で会った時すごく安心したんだ。俺と目が合っても不快そうな匂いがしなかったから......本当に、ほっとした。嫌われていなくて、本当に良かった」
「......嫌わ、ないよ。それは、ない」
「ありがとう。好きだ、A。触れたい。お前に触れたいんだ。抱き締めたい。もっともっと近くに行きたい。駄目だろうか。答えてくれ」
「え、......あ」
分からない。その選択肢を、私に迫らないで欲しい。だって私は、それを拒絶出来ない。炭治郎に真っ直ぐ求められると、分からなくなる。その瞳で見つめられると、好きだと告げられると、名前を呼ばれると......分からなくなる。
私は、どうしたいのか
「いい、よ」
やっとのことで絞り出した返答を聞くやいなや炭治郎は私に抱き着いた。縋り付くように、強く。まるでここに存在していることを確かめるように、丁寧に背中や頭を撫でられ、何度も耳元で愛を囁かれる。
そんなに私に注ぎ込まないで欲しい。この胸の中で燻る熱の正体は、なんだろう。分からない。炭治郎の声と匂いと温もりが、酷く落ち着く。
その眠ってしまいそうな心地良さに蕩けていると、炭治郎は私を抱き締めたまま尋ねてきた。
「A、接吻がしたい。駄目だろうか」
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さざんか(プロフ) - 外で思いだすだけでキュンキュンして泣きそうになります…素敵な作品をありがとうございます!新作アンケも失礼しました…! (2020年11月14日 0時) (レス) id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 久しぶりに心から焦がれる素晴らしい作品に出会えて嬉しいです^ - ^本格的に冷え込む季節となりましたので、体調にはお気をつけてお過ごし下さいませ.更新を心待ちにしております (2020年11月13日 0時) (レス) id: e9e3f41ae9 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 初めまして、めっちゃ面白いです!!すごくキュンとしますっ/// 炭治郎の態度の急変…切ないです(泣)続き気になりすぎます…!!続編も全集中で拝読したいです(*^▽^)/★*☆♪応援しております!! (2020年11月11日 2時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 更新大変だと思いますが、とても楽しみにしています。これからも応援していますね。新作アンケート…冨岡さん好きなので、お願いしたいです。 (2020年11月7日 6時) (レス) id: 91f917202d (このIDを非表示/違反報告)
しろ(プロフ) - 久々にドキドキする話でした、、続き楽しみです! (2020年11月6日 20時) (レス) id: f83c25335c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2020年10月24日 12時