ちゃーみんぐ・わん【はじめしゃちょーの畑】 (ページ21)

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「なかなかやるじゃん」

「これが修行の成果」

「ガードが甘いぞ！おらよっと！」

「えっそれ当たんのかよ」

腕や肘が軽く触れる距離で、画面に夢中になって操作する。

「くっそ負けた～～～～」

「まだまだ修行が足りませんね」

「なんでそんな強いんだよ」

「人の家にあってさ。昔ハマってたんだ」

「ふーん。彼氏？」

「元カレってやつです」

「なるほどね」

ほんの少しの沈黙。龍昇くんてば、察しが良くって困っちゃう。

「……気になる？」

「まぁね」

「普通の人だよ。いや、普通ではないな。高学歴で高収入！でも負けず嫌いでいつも自分が正しいと思ってる人だったよ。ゲームも負ける度にからかわれるのが悔しくって沢山練習してたなぁ」

半年前くらいに別れたんだけどね、と続ける。

「服とか音楽とか食の趣味とか、あの人が良いって言うものはなんでも良く見えちゃってたんだよね。あ、でも喧嘩したらとことんメンタルボロボロにしてくるの。罵倒されても言い返せなくて」

お前は馬鹿だ、お前には何も出来ないって、何度言われたっけな。

「でもさぁ、そんな魅力的な人だから、みんな欲しがるんだ。だからわたしはこの人ときっと結婚するんだって思ってた。今までその人に傷付けられていた女の子は山ほど居たけど、自分だけは特別で、自分がこの人と幸せになる、選ばれてるって」

馬鹿だよなぁ、って笑う。龍昇くんは、わたしの顔を見たり、目を逸らしたり。真剣な顔でたまにうんとか言いながらしっかり聞いてくれていた。

「でもそうやって不安になって安定しない特別なんて意味ないよね。ただの依存で、他人から貰う薄っぺらい幸せなんて価値ないよ。だから逃げるみたいに仕事も辞めて静岡に引っ越したの」

「呪いみたいなものだったんだ。こうでもしないと逃げられない呪いみたいな？まぁ、今はもう関係ないし、どうでもいいよ」

もう1回やろう、って、暗くなったゲームの画面を動かす。

「ねえ」

「はあい」

「その呪いってまだ残ってる？」

「う～ん、若干？」

「ふーん」

「え、なに？……あ」

ちょっと目を離した間に、さっきまで自分が操作していたキャラクターは奈落の底に落っこちていた。