・ ページ33
.
「よし、行こか」
いつもは、私が見送られる朝。
でも今日からは康二と一緒に朝家を出ることになった。
服装はそこまでいつもと変わらないはずなのに、今日の康二はどこか凛としていてなんだか違う人みたいだ。
なんか変な感じ、
そんなことを思いながら康二の姿を横目で見ると胸が小さくドキン、と鳴った。
康二と過ごす時間が増え、知らないことはないくらいに康二のことは知っているつもりだったのに。
あぁ私、まだ康二のこと好きって、新しく思えるくらい、まだ知らない康二の一部分があるんだってことに気づく。
それがちょっと嬉しくて自分の中に生まれたその小さな芽が愛おしくなった。
「いってらっしゃい。頑張ってね」
「おう、Aちゃんも」
改札をくぐり、目の前の康二に手を振ると、康二は少し緊張した表情を見せた。
その表情に胸がぎゅっと掴まれる感覚になる。
自分の子どもが巣立っていくようなそんな感じ。
…子どもいたことないけど。
「無理しちゃだめだからね」
「わかっとるよ」
「ちゃんと休憩すること」
「わかってる」
「あと、「あーもう！」
心配して次々と言葉を並べる私の口を康二は手で抑える。
「これこの前もやったで」
「…だって心配なんだもん、」
「そない心配せんでもええやんか。俺もええ大人やで？」
「分かってるけど…」
分かってはいるけれど、まだ不安で怖い気持ちのほうが大きい。
また康二があの時みたいに辛い思いをしてしまうんじゃないかって。
自分の好きなことさえも好きって思えなくなってしまうんじゃないかって。
康二の笑顔が無理矢理作られた偽物になってしまうのが、怖かった。
「大丈夫やから」
「うん、」
「帰ったら一緒にご飯食べよな」
不安で今にも泣きだしたいくらいにいっぱいいっぱいの私を見兼ねて、康二は私の頭をなでると「な？」とニカッと笑顔を浮かべた。
新しい環境に飛び込んでいくのは康二で、緊張と不安でいっぱいなのは康二のほうなのに、とその笑顔を見て少し泣きそうになる。
…こんなとき本当は私が康二のことを支えなきゃいけないのに。
康二はこんなときでさえ、自分のことより、私を安心させることを優先してしまう。
その優しさにいつまでも甘えててはいけないのに、分かってるのに。
「じゃぁ今度こそ、」
「いってらっしゃい」
そう言って手を振り、階段を駆け上っていく康二の後ろ姿を眺める。
私はその背中に小さく「がんばれ」と呟いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 373人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さーや(プロフ) - あいさん» 忠犬康二くんかわいくて妄想が捗る！笑 番外編、ページの都合でこれで終わりなのですがまたどこかで康二くんのお話書きたいなぁーと思っております。 (2020年4月5日 10時) (
レス) id: 6178770b80 (このIDを非表示/違反報告)
さーや(プロフ) - なっちゃんさん» 好きと言ってもらえてよかった！！なかなかいい言葉が思い浮かばなかったのでそう言ってもらえると嬉しいです〜 (2020年4月5日 10時) (レス) id: 6178770b80 (このIDを非表示/違反報告)
さーや(プロフ) - みきさん» 結婚して子ども生まれるのもいいですね〜今回はページの都合で書けないので、また機会があれば書いてみます…！ (2020年4月5日 10時) (レス) id: 6178770b80 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 康二くんめちゃくちゃ忠犬すぎて番外編だいすきです〜！！更新お疲れ様です！ありがとうございます^ ^ (2020年4月4日 20時) (レス) id: 07953fa80c (このIDを非表示/違反報告)
なっちゃん(プロフ) - このお話すっごい好きでした。一つ一つの台詞がツボです！！ (2020年4月4日 18時) (レス) id: 974b0d2d7a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さーや
| 作成日時：2020年3月30日 14時
