渡したいもの ページ17
.
コンビニの自動ドアをくぐると、レジカウンターの中にAちゃんの姿を見つける。
俺のほうをちらり、とみると「いらっしゃいませ」となんともやる気のなさそうな声をあげる。
これが俺相手にだけで他のお客にはちゃんと営業スマイルを浮かべて元気に「いらっしゃいませ」なんて言うのだから、その態度の違いに少しだけ寂しさを覚える。
俺だって、Aちゃんに笑顔で出迎えられたいのに、なんて。
店内をぐるり、と見渡し、他に客がいないのを確認すると、俺は真っ直ぐレジのほうへと足を進める。
「おつかれ」
「いらっしゃいませ」
いつものようにお疲れ様も言ってくれないAちゃん。
いつまでも変わらないその態度に居心地の良ささえ感じてしまっている今日この頃。
…いよいよ俺、やばいかもしれない。
「今日は、Aちゃんに渡したいものがあってさ、」
俺がそう切り出すと「なんですか」と明らかに警戒心をムキ出しにするAちゃん。
「そんな怖い顔しないでよ」
そう思わず声をあげるが、Aちゃんの表情は険しいまま。
ここまで露骨に態度で示されると、いくら俺でもさすがにめげる。
…まぁそれでAちゃんのことを諦めるような意志の弱さではないけれど。
「これ。今度、俺デビューすんの」
カバンから自分たちのCDを取り出すと、Aちゃんの目の前に差し出す。
目の前のCDに視線を向けたAちゃんは「そうなんですね。おめでとうございます」と御世辞だと丸わかりの言葉を並べる。
「だから、これAちゃんにあげる」
レジカウンターにCDを置くと、「Aちゃんにどうしても聴いて欲しくて」と付け加える。
「いや、あの、」
戸惑ったような声をあげるAちゃんに向けて、笑顔をひとつ。
「感想聞かせてね」
そう言って、レジカウンターに置いたCDの上にメッセージのIDを書いた紙を重ねる。
「困るんですけど、」
そう言うAちゃんの言葉は都合よく聞こえなかったことにして、じゃあね、と手を振り、出入り口の方へと体を向ける。
その瞬間、ガラス越しにこちらを見つめる人物とバチリと目が合った。
‥‥何やってんだ、あいつら。
はぁ、と小さくため息をつくと、俺はそっと自動ドアをくぐった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1015人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さーや(プロフ) - ひとみさん» コメありがとうございます。私も岩本くんがんばれー！と思いながら書いてます。笑 また更新しますので、読んでいただけると嬉しいです〜 (2020年3月16日 21時) (
レス) id: 6178770b80 (このIDを非表示/違反報告)
ひとみ(プロフ) - 冷たい態度を取られている、岩本君に「頑張れ！！」と応援してしまいます^ ^お話も面白くて、情景が浮かんで、読んでますよ〜 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 795ac4ea66 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さーや
| 作成日時：2020年3月15日 11時
