じゃあね、 ページ32
.
「なんで、幸せになれないって、Aさんが決めつけんの」
「決めつけてるわけじゃないよ、事実を言ったまで」
「そんなのわかんないじゃん」
そう言って、阿部くんは怒りと悲しみを混ぜたような声をあげる。
阿部くんと一緒にいるのは楽しくて、2年前のあの日以来はじめてちゃんと笑えた気がしたし、心から楽しいと感じた。
でもそれが恋に発展するかと言われたらそんなことは絶対にない。
私はいつまでも北斗と、他の誰でもない、あの白い部屋で眠り続ける北斗と一緒に生きていくのだから。
でも、と阿部くんの言葉に揺れる自分もいる。
北斗との思い出に縋っていくだけじゃいつかは一人で立つことすらままならなくなることくらい自分でもよく分かっていた。
だから、誰か隣にいて欲しいってそう思ってしまう自分がいる。
「…阿部くん、明日時間ある？」
そう聞いた声は低くて、冷たくて、自分の声ではないような気がした。
北斗のことを話したところで楽になれるわけでもない。
未来が変わるわけでもない。
私の毎日は、これまで通り続いていく。
でも、
でも、
少しでも希望というものがあるなら、それを真っ直ぐにこちらに視線を向ける目の前の阿部くんに託してみたい、と思った。
「明日、休みだから時間あるよ」
阿部くんの言葉にまた心が揺れる。
その揺れは確実に波を大きくしていく。
「…じゃぁ明日、着いてきて欲しいところがあるの。いい？」
「わかった」
阿部くんは真剣な表情を浮かべ、頷く。
私あっちはしばらく見つめ合ったあとで、どちらかともなく「じゃぁね、」と手を振る。
その顔にははどこかぎこちない笑顔が浮かんでいた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 171人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さーや(プロフ) - 真白さん» 書いてる側としては、ふとした瞬間に思い出してもらえるのって本当に嬉しいことです。そんな風に思ってもらえるお話を書けているのであれば、本当に書いていても救われるというか。これからも少しでもそう思ってもらえるようなお話を書けたらいいな、と思います。 (2020年4月17日 16時) (
レス) id: 4528227f28 (このIDを非表示/違反報告)
さーや(プロフ) - 真白さん» あぁもう真白さんからのコメント嬉しすぎてなんて言っていいのやら…読みながらこんな素敵な言葉を私なんかがもらっていいのだろうか、と思ってしまいました。。本当にありがとうございます。 (2020年4月17日 16時) (レス) id: 4528227f28 (このIDを非表示/違反報告)
真白 - さーやさんの表現って、じわじわと水のように、ゆっくりと、広く深く心に染み渡っていく感じがして、心地良いんですよね。読み終えた後も、ふとした時に思い出して、何度も反芻したりして。多分私、これから昼間の月を観たら、シールのこと思い出しちゃうなって。 (2020年4月15日 22時) (レス) id: 76e9874d53 (このIDを非表示/違反報告)
真白 - この先こうなるんじゃないか、みたいなのは、読んでる時あまり考えてなくて(笑 毎回純粋に楽しんでます。ピュアだからこそ出来る恋の話だなと思うし、阿部ちゃんには恋愛下手であって欲しいという、私の願望は満たされました(笑 (2020年4月15日 21時) (レス) id: 76e9874d53 (このIDを非表示/違反報告)
さーや(プロフ) - 真白さん» 多分、思っていたようなお話ではなかったかと思うのですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。相変わらず真白さんの素敵なコメントにキュンってしちゃいました！笑 ありがとうございます。 (2020年4月15日 16時) (レス) id: 4528227f28 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さーや
| 作成日時：2020年4月5日 13時
