�� ページ7
大野side
「そのまんまじゃ、風邪ひいちゃう。」
彼女はそう言って、俺をむりやり自分のアパートへと引っ張っていった。
「…こんくらい大丈夫だよ。」
だって、能力者だもん。普通の人間じゃない…だなんて、まさか言えないけど。
「いいから、ほら！」
その声とともにタオルが飛んできて
俺は仕方なくタオルで濡れた髪を拭いた。
「そういえば！」
彼女が笑って俺の顔を覗き込む。
「自己紹介してなかったね。」
しっかりと俺の目を見て、彼女が言った。
「私の名前は、雨笠A。」
「A…」
なんで。
なんで…
「えっと…」
戸惑う彼女に、俺は曖昧に笑うと自己紹介をした。
「…俺は、大野智だよ。」
綺麗な名前ね、と彼女は笑った。
俺も、君に似合ってる、と返した。
雨上がりの朝は、そんな暖かい空間だった。
…
「…さすがに、悪いよ。」
むぅ、と口を尖らせると彼女が笑う。
目の前には、ご飯と味噌汁とアジの開き、と豪勢な朝ごはんが並んでいる。
「1人で食べるより2人で食べる方が美味しいじゃない。」
くそう、と心の中で悪態をついた。
別に、朝ごはんが食べたくないわけじゃない。むしろ、彼女と食べれるなんて奇跡だと思ってる。
…だけどさ。
展開が速すぎる。
ちょっと整理する時間が欲しかった。
「だって急いで帰ることないってさっき言ったじゃない。」
「いやまぁ、言ったけどさ…」
確かに言った。
さっき彼女に急いでるか聞かれて、素直に答えちゃったんだ。
「…じゃ、そこまで言うんなら頂くよ。」
ボソッと呟くと、本当に彼女が嬉しそうな顔をした。
…
朝ごはんはどれも美味しかった。
Aは本当に料理が得意らしい。
少し簡単に話をしてから、さすがにもう帰ろうと席を立つと、彼女は玄関まで送ってくれた。
「あのさぁ…」
靴を履きながら呟くと、彼女は、ん？と首をかしげた。
「…そんな、今さっき出会った男を家に上げない方がいいよ。」
そう言うと、彼女がふふ、と笑った。
「そうね。そんなことするなんて、本当バカだと思う。」
「けどね。」
「あなたなら、大丈夫だと思ったの。
男の人を家に上げたのなんて、あなたが初めて。」
ふわり…
どこからか入ってきた春風が2人を通り越していった。
…
ゆっくりと歩く帰り道。
そんな俺の頭上には、七色の虹が輝いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 474人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
