☆ ページ29
「…それにしても、あの言葉が本当になるなんてねえ。しかも、瞬間移動を引き寄せるとか意味わかんない。」
智くんが頬杖をつきながらぼそりと呟く。
今は、夜ご飯も片付けも終わって
昨日のことについて話しているところ。
「…あの言葉？」
カズが首を傾げ、ジュンも不思議そうにしているから、そういえば話してなかったと思い出した。
「ちょっと前の依頼で捕まえた能力者が復活するって言葉を残してったんだよね。本当、まさかこんな大ごとになるとはね。」
智くんが2人にそう説明して、うーんと唸り声をあげた。
「そういえば、雅紀は？」
俺がリビングに入ると同時にすれ違って、さっきから姿が見えない。
慌てたように部屋に戻っていったみたいだけど、何かあったんだろうか。
「まーくんなら、廊下で…」
「あー、あっつい！」
カズが言いかけた途端、がちゃんと勢いよくリビングのドアが開いて雅紀が戻ってきた。
「ほんとクーラーはいいね！」
汗だくの雅紀がカズの隣に座ると、嬉しそうにニッコリと笑う。
「まーくん、何してたの？」
カズがそう尋ねると、雅紀は声を上げて俺の顔を見た。
「あ、そうだそうだ！電話してたの！」
「電話？誰と？」
うちの電話はほとんど使われない。
セールスの電話すらかかって来ないし、依頼に関しては99%手紙かメールで来るからだ。
お互いの連絡はテレパシーでできるし、俺たちはケータイをもってないし。
「犯人のこと、気になったから警察に確認したんだ。そしたらね、本当びっくりしたんだけど…」
そこで雅紀はスゥッと息を吸った。
「俺の捕まえた犯人は、逃げてないってさ。」
「…え？」「それって…」
俺と智くんの声が重なり
カズとジュンも、意味がわからないと言いたげな顔で雅紀の方へ体を向けている。
「つまり、2人は別人って事？」
カズが口にした言葉は、妥当でかつ残酷な現実でもあった。
「…そういうことになるよね。」
智くんがゆっくりと頷く。
「でも、じゃあなんで…」
ジュンが漏らした疑問も最もで。
「2人はさ、全く接点がないわけないよね？」
これは、俺の希望でもある。
ただでさえあんな能力者が2人いるだけでも脅威なのに、もし2人が無関係なら怖すぎる。
「それが、双子だったみたいだよ。」
雅紀が俺の目を見て、言葉を選ぶように続けた。
「翔ちゃんの相手はゲンジって名乗ったんでしょ？俺の相手はヘイヤって言ってた。」
静かな部屋に雅紀の声が淡々と響いた。
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