ウィスキー、ロックで

禁酒6日目 ページ6

長い静寂を破ったのはイ・チャンさん


よかった顎は外れてなかったみたい


頭を下げたまま次の言葉を待つ


「えっと、覚えてないってどこから…ですか？」


予想外の言葉に思わず頭を上げる
あまりの気まずさに目が泳ぐ


「まさか、僕と出会ったことも覚えてないんですか？」

はいそのまさかです

「おっしゃる通りです どこの誰かも存じません」


うそ…
小さくつぶやいて今度は彼が目を泳がす


「一回落ち着いて話しましょう、座ってください」


椅子を指して促されるまま着席
封筒をテーブルに置いて差し出す


「待ってください、コレなんですか？僕そんなつもりないけど」

差し出した封筒が彼の手によってこちらに戻される

「慰謝料です 多大なるご迷惑をおかけしたのでお詫びです」

今度は私の手で彼の方へ

「迷惑とかそんなじゃないって言ってる」

またこちらへ

「迷惑以外の何でもないでしょう 見知らぬ酔っ払いに絡まれた挙句…」

また向こうへ

「だから違うってば！」

またこちらへ

「じゃあなんだって言うんですか！受け取ってください！」

また向こうへ

互いにどんどん大きくなる声と比例するように速く動く封筒
何往復かした後やっと止まって


「わかった、じゃあこのお金使い果たすまで今から飲もうそれでいいよね？」

「はぁ？」


やべ、はぁ？とか言っちゃった

じゃなくてこの人さっきからマジで頭おかしいんじゃないの
昨日やらかしといて飲むわけないし 歴史を繰り返したいわけ？ドMか何かなの？

「いや、お酒は飲まないって決意してるので…」

「だよね、じゃあこれは持って帰って
そんで俺の話聞いてください」

また封筒をこっちに戻してきたのでテーブルの真ん中まで戻して話を聞いてみることにした

「わかりました お話は聞きます」

彼は封筒を押し戻さず視線だけをやって小さいため息をついた


「俺も飲まないから ご飯食べよう」

そう言って店員さんを呼ぶと私に嫌いなものはあるかと聞いて
ない と答えるとじゃあ適当に頼むねって言った



なんか不思議な人だな
生きてる世界が違うっていうか
落ち着き方が年不相応っていうか
私と同い年くらいだと思うんだけどな

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