ウィスキー、ロックで

禁酒36日目 ページ36

あの日玄関で呆然とした気持ちを引きずったまま 2週間が過ぎてしまった

今日まで一度も会えてない

会えない時間に比例するようにチャニからのメッセージも増えて タイミングが合えばテレビ電話をすることもある

そんなことをしてるうちに時は流れて
次にどんな顔して会えばいいのか段々分からなくなってきた
前までこんなこと考えたことなかったのに

元々ストレートに言葉で伝えてくれるタイプだったと思うんだけどそれが上限を失ってしまったというか
向かい合った時 どんな顔をすればいいんだろう


まぁそれが今日なんですけども

小さな映画館でレイトショーを観る
暗がりとは言え出歩くのは少し緊張する
会うのも緊張する


家の近くまで車で迎えにきてくれる


鏡で髪を整えてリップを塗りなおす


「よし」


エレベーターまで歩きながら鼻歌を歌ってたら人とすれ違った めちゃくちゃ気まずい


控えめに吹く風が気持ちよくて 前髪を整えながら待っていたら目の前に黒のSUVが滑り込んできた
運転席を覗いて手を振る

チャニがシートベルトを外す前に自分でドアを開けて乗り込んだ

「俺が開けるのに」

「自分で開けれるよ」


お、意外と普通に会話できてるね


「迎えにきてくれてありがと」

「全然！危ないから今度からは俺が着いてから外に出てね」

「大丈夫だよ」

「だめ、いつ何があるか分からないって前にも言ったでしょ」

「心配性だなぁ」

笑いながらシートベルトに手を伸ばす

「恋人なんだから 当たり前」

なんでもない顔して爆弾を落とす
シートベルトをうまく差し込めずに手元がカチャカチャ鳴る

「あ、照れてる」

チャニの手が重なってカチリと音が鳴った
顔を上げるとすぐ近くにチャニの顔があって慌てて窓の外を見る

「い、いい天気だね〜」

全然普通にできてないじゃん…

何も言わないままチャニが小さく笑って手が離れると車は走り出す
なんでもお見通しなのかもしれない


「明日土曜日だからお休みだよね？」

「うん」

「帰るの、遅くなってもいい？」

「うん？大丈夫だけど…」

運転席を覗き見してみる

「映画終わったらさ、ドライブしない？」

「したい！」

Oh 食い気味なっちゃった

「ほんと？よかった〜」

しばらく会えなかったから長く居たくて
と 肩の力を抜いてチャニが笑う


「私も同じこと思ってた」


嬉しそうにハンドルを握る指でリズムをとりながら鼻歌を歌い出した


かわいいな





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