ウィスキー、ロックで

禁酒22日目 ページ22

「着いたー！」

「運転ありがとう」


車から降りるとおもいっきり伸びるチャニ
海だから風が強い
右手で髪を耳にかけながらドアを閉める

「夕陽きれい〜」

「波打ち際まで行ってみる？」

「背中押すのとかはなしだからね」

「せっかくかわいくして来てくれたのに そんなことしない」

「かわいくしてなかったらするんだ？」

「時と場合による」

「何それ」


駐車場から海に続く短い階段を降りて砂浜へ
砂に足が持っていかれて歩きづらい

「わっ」

「大丈夫？」

フラついたところでとっさに腕を引いてくれた

「ありがと」

腕を掴んでた手がそっと下りてきて手を繋がれる

「そこまで あそこまでこのままでもい？」

数メートル先の波打ち際を指差してチャニが言う


「人がいないなら」


やっと絞り出した言葉がこれ
もう少しかわいげのある言い方はできないものかね

「ん、ありがと」

私の手を引いてゆっくり歩き出す
逆光で表情が見えない

数十秒だったかもしれないし数分だったかもしれない

短くて長い時間をかけて私たちは手を繋いで歩いた


私からは離せなくて チャニが動くのを待った
振り返りながらそっと離された手

「きれいだね」

「私夕焼けの海初めて来た」

海といえば青い海青い空を想像するけど
オレンジ色もきれい

「天気がよくて良かった」

落ちてる木の枝を拾って砂に文字を書いてみる


イ チャン

「俺の名前だ」

隣に並べられる私の名前

「Aの名前」

並んだ途端海に攫われていく

「消えちゃったね」

「何度でも書けばいいよ 写真にすればずっと残る」

もう一度書いて 写真を撮るチャニ
それを黙って見つめる

私にできることはなんだろう


「A」

呼ばれて顔を向けるとパチリとシャッター音

「急に撮った！ちゃんと盛れてないやつは全部削除だからね」

不意打ちの顔はだめでしょ
たぶんとんでもない化け物が写ってるんじゃない？

いろんな指導を受けながら撮ったり撮られたり
本格的なカメラは私には難しい

自分のスマホでは海の写真を一枚だけ撮った



太陽が海に隠れたら一気に暗くなって足元も見えなくなった

「そろそろ行こっか」

チャニがそう言ってスマホのライトを照らす

手を伸ばせば届く距離

袖を少しつまんで

「向こうまでこうしててもいい？」


息を呑む音が波をかき分けて聞こえた


「危ないからこうしよう」


またチャニの手が私を引く





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