其の陸 ページ7
それから一睡も出来ずに夜は明けた。
まぁ多少の寝不足なら問題は無い。
「一晩でしたがお世話になりました。これ、少しですがどうぞ。」
僕は有るだけの銭を老婆に渡した。
「有難いのですが、銭は要りませんよ。」
「いえ、僕の自己満足ですので。」
では、と暖簾を潜った所に見知った顔が居た。
「時透無一郎…さん。」
「何でそんなに硬っ苦しいのさ。無一郎で良いよ、俺はAって呼ぶから。」
「あー分かりました。」
そう言って立ち去るのかと思いきや。
「どうしたの?」
着いてくる。
態と歩幅を小さくしても、急に走り出しても、止まっても。
「何してるの、早く行こうよ。」
「あの…僕無一郎さんに行く場所って言いましたかね。」
「言ってないよ。」
もうこのまま警察突き出したらいいんじゃないか。
しかし今回はまともな会話をしたからか、少し情が湧いている。
「…やっぱり、Aと僕はどっかで会ったんだよね。」
口を開いたら何を言ってるんだ。
「…僕は覚えてないです。」
「うん、僕も。」
…どうしてそんな確信が持てたんだ。
本当にこの人は不思議だ。
「其れはAもでしょ。」
「え?」
「不思議なのはAもでしょ?って話。」
「そう、ですかね。普通にしてると思うんですけど。」
「だからだよ。僕だって只忘れっぽいだけで普通にしてる。」
其れが不思議なのでは…。
そう思ったが心の奥に仕舞っておくことにする。
「あっ甘味処があるよ、寄っていこう。」
「えっあ〜…お代は無一郎さん払って下さいね。」
「別に良いけど。」
そう言って僕と無一郎さんは暖簾を潜った。
「あらっ?時透君じゃない!」
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お塩(プロフ) - いおりさん» ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいです(*´˘`*) (2019年12月29日 13時) (レス) id: b8a6ee6ea6 (このIDを非表示/違反報告)
いおり - すごい面白い、、、。続きが気になります。これからもお体に気をつけて更新頑張っていただければと思います。 (2019年12月29日 13時) (レス) id: bce55b4438 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お塩 | 作成日時:2019年9月9日 11時