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日中の陽気はどこへやら、肌寒さすら感じる夕方、ドラマの撮影から自宅へ戻り、ただいま、と言いながら玄関のドアを開ける。

一人暮らしをしていた時は言わなくなっていたのに、いつの間にかまた自然と口から零れるようになった。


そんな些細な事実に口元を緩めながら、ふと違和感を覚えた。


いつもなら必ず帰ってくるおかえり、という声がない。



窓越しに聞こえる外の喧騒、チクタクと時間を刻む時計、自分の呼吸音、まるで一人暮らしをしていた時のような静寂。



今日は昼過ぎからオフだからご飯の準備をしておくと言っていなかっただろうか。

頑張って作るな、と仕事に行く前に言っていたはず。
内心首を傾げながら土間から上がろうとした時、彼の靴が見当たらない。

昼寝でもして買い物に出かけたのが遅かったのか。


珍しく疲れた、と言っとったしな。



のんびり待っているかと、ソファーに座り台本でも読もうかと思ったが、どうにも変だ。

エアコンは付けていないのに、顔に風を感じたり、誰もいないのに服が引っ張られた感覚がしたり、腕が異様に重かったり、急に叩かれたような痛みがあったり。

柄にもなく疲れとんのか、と台本を開くのは諦め、ソファーに横になる。



帰ってきたら起こすやろ、そう思って。

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作者名:そると | 作成日時:2022年3月20日 19時

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