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閉店後の理容室には有線のBGMも流れてなくて、ましてやサロマジでいつも流れているジャズやボサノバのBGMも聞こえてくることもなく、シンと静まり返った店内には
俺が小刻みに動かすハサミの音だけが響き渡っていた。
変わらないのは、客がぼんやりと鏡を見ながら吐く小さな溜息が、これから身の上話が始まる前兆だということだけだ。
「何か…あったんですか…？」
チョキチョキと音を鳴らしながらお決まりのセリフを吐けば、客も決まって待ってましたと言わんばかりに話し始める。
「実は…彼のサプライズでヘリに乗って指輪を貰ったんだけどよぉ、サイズが大きくてブカブカで…」
「…直せばいいじゃないですか？」
「それが、ヘリから降りた瞬間に落として無くしちゃって…」
「また買って貰えばいいじゃないですか？
お金、持ってるんでしょ お客さんの彼氏。」
「いや、ヘリの中で、キュヒョンがうちに住んでるってこと全部ヒチョルさんに話してさ、こんなん貰えないって返そうと思って外したときに落としちゃったから指輪。」
「あんた鬼か悪魔か…」
誕生日の夜にそんなこと告白されてフラれるなんて…宇宙大スターに何やってんだよ…。
「異論は無ぇべ。ウニョクさんにもキュヒョンにだけは言うなって口止めした。」
あー、だからウニョギヒョン、、俺にAさんに会えって―。
「それで…、彼に染まっていた自分と別れるために、ここへ来たんですか？」
「そうじゃないよ、今回は。」
俺たちが出会ったあの時と同じような会話をしてるけど、あのときと違ったのはAさんがはっきりと意思を持って鏡に映った俺を見上げていた。
ヒチョルとAが上手くいかないなんてことは、初めから分かってた。
あんな豪華な誕生日パーティーを見せられたら尚更だった。
それは、もしかしたらAさんも―。
「チョ・ギュヒョン、あなたに言いたいことがあって来たんだよ。
あのさ―、もう私のことを助けてくれたり励ましたりするのやめて欲しいんだわ。
私、田舎者だからちょっと優しくされるとすーぐ勘違いするもん。
大雑把に見えるだろうけど、細かいこと気にしてクヨクヨして眠れなくなるの。
なのに勝手に黙って出て行くとか、意味分かんないことやめて欲しい。
マジでホント、、意味分かんねぇから…」
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作者名：私
| 作成日時：2017年12月2日 20時
