5.成熟編 ページ5
非常灯の灯りだけがぼんやりと浮かんで、閉店後の薄暗くなった実家の理容室の扉を開けると同時に漂ってくる香辛料の匂いが俺の生臭さを消していく―。
さっきここまで帰って来る途中で酒屋の前を通りかかったら茶美子のオカンが出てきて、でろんと白目を剥いた魚が数匹入った袋を俺に無理やり押し付けたのだ。
「丁度良かった。トゥギんとこに持って行こうと思ってたから。」と豪快に笑うオカンの口の両端に皺が寄る。
昔は茶美子に似て背が高くて美人だったけど、どんな美人でも年齢には逆らえない。
うちのオンマは別格か。さすが美魔女。
昼間、茶美子のオヤジと五郎丸さんが釣って来たけど大量過ぎて食べきれないのだと、困った顔で幸せそうに笑ってやがる。
幸せの匂いってこんなに生臭いものなのか―。
と思ったら、袋に穴が開いていて中から臭い水がボタボタと零れ落ちてる。
そんなことにも気付かずに、茶美子のオカンは「アンタはいつ嫁を貰うんだ」と余計なお世話をしゃべり続けた。
「俺より先にヒョンが貰うべきでしょ…」
「あー!そうだったよ!この前のお見合いの結果なんだけどさ〜、」
「魚ありがとう。
茶美子にもよろしく伝えて。」
「あ、ちょっとキュヒョン待ちな、、」
丸めた背中を更に丸めて、後ろから引き留める声を遮り理容室を目指して歩いた。
早く、この生臭いプレゼントをどうにかしたい。
なのに、実家の扉を開けたらまたこの匂いときたもんだ。
「またカレーかよ…。」
いいけど別に、好きだから、、、。
いつものように、ただいまと声を漏らし掛けたとき、店の奥の自宅からカレーの匂いと一緒にふわふわ流れて来たのは弾むような笑い声で。
またオンマでも来てるのか?
俺、いつまで経っても慣れないんだよな、あの人…
それでも再会したばかりの頃に比べれば随分と馴染んだ方だ。
遠くから大切な人の幸せを願うこともあるのだと、知ったからかもしれない。
彼女が、置いて来た息子達のことをいつも思っているといつかのTVで言ってたことも、あながち嘘ではなかったのか…と、最近になって思ったりもする。
「ヒョン〜、魚貰ったー。」
奥の自宅スペースへ近付く俺の目の前で、暖簾をひらりと捲って顔を出して
「チョ・ギュヒョンすっげぇ生臭ぇ!!」
しかめっ面で言ったのは紛れもなくあの人でした。
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作者名:私 | 作成日時:2017年12月2日 20時