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「ねぇ、さっき帆立君に何かメモ渡してなかった…?」
昼休み、僕はお弁当のおかずをつつきながら、Aさんにそう聞いた。
みんなと話していたAさんは、喋るのを止めた。
律も、真也くんも、春原さんも、特に興味なさそうに僕の言葉を聞いていた。
Aさんはお弁当から目を離し、僕と目を合わせる。
「いや?渡した覚えはないわ。帆立君が何かを落として、それを拾ってあげたんじゃない」
普段通り、いつも通りの表情でそう言い切るAさん。
春原さんらも「そうだよねぇ、まだ転校してきたばっかりだから知り合いな訳ないよね」と納得し、再び馬鹿話を始めた。
けど、僕だけはいたって真逆で…頭の中はさっきのAさんでいっぱいだった。
いつもより少し高めの、裏返ってしまいそうな声。不自然に上がっていた口角。何より、ひきつりそうな頬が印象的だった。
別に疑っている訳じゃない。Aさんが誰と仲良くしようがそれは勝手だ。だけど、もしもだ。もしも帆立君に付きまとわれているだとか、弱みを握られているとかだったら、それは大変な事だ。
見る限り、Aさんは帆立君のファンとかではなく、何か冷淡な思いを帆立君に対して抱えているように見える。
「お前どうしたんだよ?今日何か変だぞ!」
律が馴れ馴れしく肩を組んでくる。僕はいつもみたいに肩を組み返して、律の目を見る。
「別に変じゃないよ。ちょっと疲れているだけ!」
「ふぅん。舞子姐さんから見たら少し変だけどなぁ」
「そう、だね。調子悪いとかだったら遠慮なく僕らに言ってよね」
春原さんや真也くんも、僕を心配してくれているのかそう口々に言ってきた。
…申し訳ないな、僕なんかがそう思わせているだなんて。
「ホント大丈夫だから!」
僕はちくりと残る罪悪感を一掃して、彼らに対して笑った。
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作者名:稲穂 佳子 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年3月15日 15時