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「そう…そんな事が」
目の前で険しい表情を浮かべている舞子さんは、ぎりりと食いしばった。
僕はスマホのパスワードを教えてくれたお礼に舞子さんにプライバシーの範囲内で話した。
Aさんと帆立くんが許嫁という話だけは隠した。
それは、僕が口出しするような事じゃない。
「で、どうするの…?あと三日弱で、どうにかなるもんじゃなくない?」
真っ赤な夕焼けが眩しくて、綺麗で、何故か無性に泣きたくなった。けど、泣きたくなるのはそれだけが原因という訳じゃなさそうだ。
「僕は、何もできないよ」
「でも何もしなかったら、瑛一が危険な目に遭うかもしれないじゃん!Aだってどうにかできるようなことじゃないし…」
「でも僕は、Aさんに迷惑をかけたくないんだ」
僕がぽつりとつぶやくと、舞子さんは黙った。今、僕が思っている事を察したようだ。
「…別れるって事?」
「……別れたら、帆立くんも納得するだろ。Aさんはやり手だから、その後帆立くんに付きまとわれたってきっと対処できるよ…問題なのは、僕が無駄に問題に絡む事なんだ、」
「あんた馬鹿じゃないの」
切り裂くような、鋭い声で遮られた。まるで、僕の考えなんてごみくずでしかないようだ。
舞子さんは信じられない、とでもいうように首を振った。
「らしくない。いつもの瑛一だったらこういう時Aさんの事は僕が守る!なんて言って、必死こいて頑張るでしょ。なにあんたが弱気になってるの?本当に馬鹿になっちゃうよ?」
もっともな事を言われ、僕は黙り込む。
あぁ、やっぱり僕は馬鹿みたいだ。
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作者名:稲穂 佳子 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年3月15日 15時